経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)が不成功に終わった患者に対するバルーン拡張型弁を用いたTAVRの再施行は、初回TAVRにおける機能不全の治療に有効で、手技に伴う合併症が少なく、死亡や脳卒中の割合は、臨床プロファイルと予測リスクが類似し、nativeな大動脈弁狭窄に対してTAVRを施行した場合と同程度であることが、米国・シーダーズ・サイナイ医療センターのRaj R. Makkar氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年8月31日号で報告された。
米国のレジストリデータを傾向スコアマッチング法で解析
研究グループは、米国胸部外科学会/米国心臓病学会経カテーテル弁治療レジストリ(STS/ACC TVT Registry)の2011年11月9日~2022年12月30日のデータを用いて解析を行った(Edwards Lifesciencesの助成を受けた)。
初回TAVRが失敗した後に施行された2回目のバルーン拡張型弁を用いたTAVR(再施行TAVR群)と、経カテーテルまたは手術による大動脈生体弁の置換術を受けていないnativeな大動脈弁疾患に対して施行されたTAVR(native-TAVR群)を比較した。
傾向スコアマッチング法を用いて、各群の手技、心エコー図検査、臨床アウトカムの評価を行った。
バルーン拡張型弁によるTAVRを受けた35万591例(再施行TAVR群1,320例、native-TAVR群34万9,271例)のうち、傾向スコアマッチング法で抽出された各群1,320例が解析に含まれた。ベースラインの再施行TAVR群の平均年齢は78(SD 9)歳、42.3%が女性で、81.9%がNYHA心機能分類クラスIII/IVであり、外科手術による30日死亡リスクの平均値は8.1%だった。
1年以内と以降の再施行で、死亡、脳卒中の発生に差はない
再施行TAVR群における手技関連合併症の発生率は低く、冠動脈の圧迫または閉塞が4例(0.3%)、手技中の死亡が8例(0.6%)、開胸心臓手術への移行は6例(0.5%)であった。これらの値は、native-TAVR群(それぞれ、1例[0.1%、p=0.37]、3例[0.2%、p=0.23]、2例[0.2%、p=0.18])と同程度だった。
主要アウトカムである30日死亡率(再施行TAVR群4.7% vs.native-TAVR群4.0%、p=0.36)、1年死亡率(17.5% vs.19.0%、p=0.57)、30日脳卒中発生率(2.0% vs.1.9%、p=0.84)、1年脳卒中発生率(3.2% vs.3.5%、p=0.80)は、いずれも両群間に有意な差を認めなかった。
再施行TAVR群では、1年後の大動脈弁圧較差が低下したが、native-TAVR群に比べると高かった(15mmHg vs.12mmHg、p<0.0001)。また、1年後の中等度~重度の大動脈弁逆流の割合は、両群で同程度だった(1.8% vs.3.3%、p=0.18)。
再施行TAVR群のうち、初回TAVRから1年以内と1年以降の再施行には、再施行から1年後の死亡(1年以内17.4% vs.1年以降16.7%、p=0.80)および脳卒中(2.2% vs.3.5%、p=0.24)の発生率に差はみられなかった。また、初回TAVRでバルーン拡張型弁を用いた場合と非バルーン拡張型弁を用いた場合とで、再施行TAVRから1年後の死亡(バルーン拡張型弁16.5% vs.非バルーン拡張型弁18.1%、p=0.42)および脳卒中(3.4% vs.3.0%、p=0.94)の発生率にも差はなかった。
著者は、「これらの結果は、不成功に終わったTAVRの治療の指針となるだろう。バルーン拡張型弁を用いたTAVRは、選択された患者におけるTAVR失敗に対する妥当な治療法となる可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)