急性冠症候群(ACS)が疑われる患者において、高感度心筋トロポニン検査の導入は、高感度検査によって再分類された患者の5年後の心筋梗塞または死亡のリスク低下と関連しており、転帰の改善は非虚血性心筋損傷患者で最も大きく、心筋梗塞の同定を超えた幅広い有益性が示唆された。英国・エディンバラ大学のKuan Ken Lee氏らが、ステップウェッジ・クラスター無作為化比較試験「High-Sensitivity Troponin in the Evaluation of patients with suspected Acute Coronary Syndrome trial:High-STEACS試験」の長期追跡解析の結果を報告した。心筋トロポニンの高感度検査の導入によって従来の検査より多くの心筋損傷および心筋梗塞の患者が同定されているが、これにより転帰が改善されたかどうかはわかっていなかった。BMJ誌2023年11月27日号掲載の報告。
高感度検査の導入前後で5年時の心筋梗塞/全死亡リスクを評価
研究グループは、2013年6月~2016年3月に英国・スコットランドの2次および3次医療センター10施設において、救急診療部を受診したACS疑いの連続症例4万8,282例を登録し、心筋トロポニンI値を標準検査および高感度検査の両方で測定した。
本試験では、施設を、男女別の99パーセンタイル診断閾値(女性:>16ng/L、男性:>34ng/L)を用いた高感度検査の早期導入群(5施設)と後期導入群(5施設)に無作為に割り付け、最初の少なくとも6ヵ月間は両群とも高感度検査の結果は盲検化し標準検査に基づき治療を行った。その後、早期導入群では高感度検査に基づき治療を行い、後期導入群ではさらに6ヵ月間は標準検査に基づき治療を行った後に高感度検査に基づき治療を行った。両群とも高感度検査を導入後は標準検査の結果は盲検化した。
主要アウトカムは、5年時の心筋梗塞または全死亡で、Cox比例ハザード回帰モデルを用い、全患者および高感度検査で再分類された患者において高感度検査導入前後の転帰を比較した。
高感度検査で再分類された患者では5年時の心筋梗塞/全死亡が減少
4万8,282例中1万360例は標準検査または高感度検査で心筋トロポニンI濃度が99パーセンタイルを超え、このうち標準検査で同定されず高感度検査で同定された1,771例(17.1%)が再分類された。
高感度検査による治療の導入前vs.導入後の主要アウトカムの5年イベント発生率は、全患者においてそれぞれ29.4%(5,588/1万8,978例)vs.25.9%(7,591/2万9,304例)(補正後ハザード比[HR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.93~1.01)、高感度検査で再分類された患者においてそれぞれ63.0%(456/720例)vs.53.9%(567/1,051例)であった(補正後HR:0.82、95%CI:0.72~0.94)。
高感度検査導入後、非虚血性心筋損傷患者ではその後の心筋梗塞または死亡の減少が観察されたが(補正後HR:0.83、95%CI:0.75~0.91)、1型心筋梗塞患者(0.92、0.83~1.01)および2型心筋梗塞患者(0.98、0.84~1.14)では観察されなかった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)