CLEAR!ジャーナル四天王|page:12

多剤耐性抗結核治療薬を用いた薬剤感受性結核の治療期間短縮トライアル(解説:栗原宏氏)

結核は、発展途上国を中心に年間約1千万人が発症、約160万人が死亡する疾患である。日本国内では減少傾向ではあるものの、2021年には約1.1万人が新規に登録され、約2千人が死亡している。結核の治療は結核菌の耐性化予防が非常に重要であり、多剤併用、長期間投与が基本となる。一方、複雑な治療方法や長期間の治療は患者の服薬アドヒアランスの低下、ひいては治療失敗、耐性化の原因にもなり得る。このような背景の下、結核治療は治療期間の短縮が模索されてきた。

2022年11月以降の中国・北京における新型コロナウイルス流行株の特徴(解説:寺田教彦氏)

本研究は2022年1月から12月までに収集された新型コロナウイルスサンプルについて、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析結果を報告している。本研究結果からは、2022年11月14日以降の中国・北京における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時の主流はBA.5.2とBF.7で、新規亜種は検出されなかったことが報告された(「北京では22年11月以降、新たな変異株は認められず/Lancet」、原著論文Pan Y, et al. Lancet. 2023;401:664-672.)。

軽症から中等症のCOVID-19外来患者において、フルボキサミンはプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮せず(解説:寺田教彦氏)

本研究では、軽症から中等症のCOVID-19外来患者で、フルボキサミンが症状改善までの期間を短縮するか評価が行われたが、プラセボと比較して症状改善までの期間を短縮しなかったことが示された。フルボキサミンは、うつ病や強迫性障害などの精神疾患に使用される選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であり、比較的安価な薬剤である。COVID-19流行初期において、このフルボキサミンは、サイトカインの産生を制御するσ-1受容体のアゴニストとして機能することから、臨床転帰の改善効果を期待して臨床試験が行われた。初期の臨床試験では有効性を示した報告もあり、ブラジルで行われたプラセボ対照無作為化適応プラットフォーム試験(TOGETHER試験)でも有効性が示されていた。そして、これらの研究に基づいたsystematic reviewやCochrane COVID-19 Study Registerでは、フルボキサミンは28日の全死因死亡率をわずかに低下させる可能性や、軽症COVID-19の外来および入院患者の死亡リスクを低下させる可能性があると評されていた。

パーキンソン病の淡蒼球超音波アブレーション試験(解説:内山真一郎氏)

パーキンソン病では黒質線条体ニューロンの鉄濃度が上昇しており、酸化ストレスや細胞死に関与していると考えられる。実際、初期の研究では鉄のキレート剤であるdeferiproneがパーキンソン病患者の鉄濃度を減少させることが示唆されているが、その効果については不明であった。FAIR PARK-II試験はドーパミン製剤をまだ投与されていない、パーキンソン病と新規に診断された372例においてdeferiproneの有効性と安全性を評価した第II相プラセボ対照無作為化比較試験であった。

左房後壁は隔離すべきなのか?(解説:高月誠司氏)

発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションで確立された治療は電気的な肺静脈隔離術である。これは異論がない。ただし左心房と肺静脈は連続した組織であり、その境界を厳密に決めることは実は容易ではない。なるべく広範囲に肺静脈を隔離するということが大事なのだが、それは肺静脈内で焼灼すると肺静脈狭窄を起こす可能性があるのと、肺静脈と左房の接合部付近、前庭部と呼ばれる部分も十分に隔離するためでもある。

医療用医薬品の患者向け広告が米国では問題になっている(解説:折笠秀樹氏)

品物を販売する企業には販売促進費(広告宣伝費)があります。いくら良い品物でも宣伝しないと広く使われないためでしょう。販売促進費(販促費と略す)の総売上に対する割合は、分野によってずいぶん異なります。自動車・教育・外食産業などの数パーセント程度に対して、医薬品は5~15%程度と少し高いようです。最も高いとされるのが化粧品のようです。医療用医薬品は医師の処方箋が必要な医薬品で、それが主の企業では5~10%程度のようですが、一般用医薬品が主の企業では10~15%と少し高めです。一般用医薬品はドラッグストアなどで気軽に買えるということで、広告宣伝にかなり力を入れているのでしょう。処方箋なしで買える医薬品はOTC医薬品と呼ばれ、薬剤師の関与が必要なものと必要ないものに分かれています。後者がいわゆる一般用医薬品です。従来は大衆医薬品と呼んでいたものです。

妊婦の感染、オミクロン株でも重篤化や妊娠合併症増加と関連(解説:前田裕斗氏)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は妊娠中に母体および胎児への有害事象を引き起こすことが示されており、妊娠前および妊娠中にはワクチン接種が強く推奨されている。一方、現在主流となっているオミクロン株について、妊娠経過や胎児への影響およびワクチンの有効性についての大規模かつ多施設からの報告はなかった。今回の研究(INTERCOVID-2022試験)は18ヵ国41病院を通じて行われ、世界保健機関(WHO)がオミクロン株に対する懸念を表明した2021年11月27日から、2022年6月30日までに4,618人の妊婦が被験者として登録された。

線溶薬を変えても結果は変わらないかな?(解説:後藤信哉氏)

ストレプトキナーゼによる心筋梗塞症例の生命予後改善効果が示された後、フィブリン選択性のないストレプトキナーゼよりもフィブリン選択性のあるt-PAにすれば出血リスクが減ると想定された。分子生物学に基づく遺伝子改変が容易な時代になったので各種の線溶薬が開発された。しかし、循環器領域ではフィブリン選択性の改善により出血イベントリスク低減効果を臨床的に示すことはできなかった。本研究ではt-PAよりもさらに修飾されたtenecteplaseとの有効性、安全性の差異が検証された。tenecteplaseは野生型のt-PAよりも血液中の寿命が長いとされた。しかし、臨床試験にて差異を見出すことができなかった。

脳卒中治療は心筋梗塞治療の後追いをしているね(解説:後藤信哉氏)

心筋梗塞症例の院内死亡がアスピリン、ストレプトキナーゼにて減少できることは、ISIS-2試験により示された。原因が血栓なので、フィブリン選択的線溶薬を使い、各種抗凝固薬、抗血小板薬を併用したが、有効性イベントの減少を明確に示すことはできなかった。アルガトロバンは日本が開発した世界に誇る選択的トロンビン阻害薬である。経静脈投与できるので急性期の症例に使いやすい。線溶薬に抗トロンビン薬を追加すれば、急性脳梗塞を起こした血栓は再発しにくいと想定されるが、臨床試験ではアルガトロバン追加の効果を明確に示すことができなかった。

アルドステロン合成酵素に対する選択性を100倍にしたbaxdrostatによる第II相試験の結果は、治療抵抗性高血圧症に有効である可能性が示された―(解説:石上友章氏)

高血圧症は、本邦で4,000万人が罹患するといわれている、脳心血管病の最大の危険因子である。降圧薬は、市場規模の大きさから多くの製薬企業にとって、開発・販売に企業の持っているリソースの多くを必要とするカテゴリーの製品であった。医療サイドにとっては、その患者数の多さと健康寿命に与える影響の重要さから、確実で安全な医療の提供の実現が求められている。公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団の調査によると、あらゆる薬剤の中で、降圧薬の貢献度・満足度がきわめて高いことが示されている。降圧治療は、疾病の克服において、これまでに人類が手にした治療薬として、きわめて高い水準の完成度に達したといえる。

過渡期に差し掛かったコロナ感染症:今後の至適ワクチンは?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

本論評ではWinokur氏らの論文をもとに先祖株(武漢原株)とOmicron株BA.1に対応する2価ワクチンの基礎的知見を整理すると共に先祖株/BA.5対応2価ワクチンの基礎的、臨床的意義に言及する(BA.4とBA.5のS蛋白塩基配列は同じで、厳密には“BA.4/5対応”という表現が正しいが本論評では“BA.5対応”と簡略表記する)。さらに、今後のコロナ感染制御に必要な近未来のワクチンについても考察する。

血友病A治療は新時代へ、スーパーイロクテイトの発売間近(解説:長尾梓氏)

BIVV001の名前で知られているefanesoctocog alfa(エフアネソクトコグ アルファ、国内で承認申請中)の第III相試験であるXTEND-1試験の結果がNEJM誌2023年1月26日号に掲載された。注目ポイントは、50 IU/kg週1回の定期投与で投与から約4日間は第VIII因子活性が40%を上回っており、7日目のトラフも15%(平均)と非常に高いこと。その結果、もちろんABRは低く抑えられ、試験開始前の定期補充療法への優越性が示されたこと(p<0.001)。さらに、出血イベントは74%がオンデマンド群でみられたが、出血の97%がefanesoctocog alfa(50 IU/kg)の1回の注射により消失したことである。

アスピリンでいいの?(解説:後藤信哉氏)

骨折症例は肺塞栓症などの致死的静脈血栓リスクが高いと認識されている。欧米諸国では静脈血栓予防の標準治療は低分子ヘパリンである。皮下注射といえども注射と経口の差異は大きい。血栓イベント予防が目的であれば経口薬が好ましい。静脈血栓予防におけるアスピリンの有効性については長年の議論がある。無効とも言いにくいが、抗凝固薬よりも有効性が乏しいと一般に理解されていると思う。しかし、本論文のintroductionに記載されているようにアスピリンと低分子ヘパリンとのしっかりしたランダム化比較試験が施行されてきてはいない。

経皮的脳血栓回収術後の血圧管理について1つの指標が示された(解説:高梨成彦氏)

経皮的脳血栓回収術はデバイスの改良に伴って8割程度の再開通率が見込まれるようになり、再開通後に出血性合併症に留意して管理する機会が増えた。急性期には出血を惹起する薬剤を併用する機会が多く、これには血栓回収術に先立って行われるアルテプラーゼ静注療法、手術中のヘパリン静注、術後の抗凝固薬・抗血小板薬の内服などがある。 出血性合併症を避けるためには降圧を行うべきであるが、どの程度の血圧が適切であるかについてはわかっていない。そのため脳卒中ガイドライン2021では、脳血栓回収術後には速やかな降圧を推奨しており、また過度な降圧を避けるように勧められているが具体的な数値は挙げられていない。

トラセミド、お前もか?―心不全における高用量利尿薬の功罪(解説:原田和昌氏)

心不全は心血管系の器質的および機能的不全であり、多くは体液量の異常と神経体液性因子の異常を伴う。過剰な体液量状態すなわちうっ血をとるため利尿薬を用いるが、急性心不全に利尿薬を大量投与するとWRFを起こし予後を悪化する可能性がある。また、長期の高用量利尿薬投与はRAS系の亢進を起こし心不全の予後を不良にする。これまで生命予後をエンドポイントとした利尿薬の大規模臨床試験は基本的にネガティブ・スタディであった。聞くところによると、利尿薬は心不全の予後改善治療ではないということで、2016年のESC心不全ガイドラインの最終稿の直前まで割愛されていたが、最後になって加えられたとか、Voors先生が担当したCKDの項が大幅に減らされたとぼやいておられたことは記憶に新しい。近年、多少の利尿作用を有し心不全の予後を改善する治療薬が使用可能になり、利尿薬に対する理解が深まってきた。

triple agonist LY3437943はdual agonist チルゼパチドを凌駕する薬剤となりうるか?(解説:住谷哲氏)

 GLP-1受容体およびGIP受容体のdual agonistであるチルゼパチドは昨年製造承認されたばかりであるが、すでにその次の薬剤としてのGLP-1受容体、GIP受容体およびグルカゴン受容体に対するtriple agonistであるLY3437943(triple Gと呼ばれている)の第Ib相試験の結果が報告された。その結果は、血糖降下作用および体重減少作用の点でGLP-1受容体作動薬デュラグルチドより優れており、有害事象の点でも問題はなく、第II相試験への移行を支持する結果であった。  DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬などのインクレチン関連薬の血糖降下作用を説明する際には、これまでインスリン分泌促進作用だけではなくグルカゴン作用の抑制も強調されてきた。グルカゴンはその名称が示すように肝臓での糖新生を促進するホルモンである。2型糖尿病患者の高血糖にはグルカゴン作用が影響しており、グルカゴン作用を抑制することが血糖降下につながると説明されてきた。つまり単純に考えるとグルカゴン作用を増強すれば血糖は上昇すると考えるのが普通だろう。そこが生命の神秘というか、グルカゴン作用を増強するtriple agonist LY3437943はGLP-1受容体作動薬単剤よりも血糖および体重をより低下させることが示された。グルカゴン作用を増強することで血糖および体重が低下したメカニズムは本試験の結果からは明らかではないが、グルカゴンの持つエネルギー消費量energy expenditureの増大、肝細胞での脂肪酸β酸化の増大などが関与しているのかもしれない。

治療抵抗性高血圧に対するアルドステロン合成阻害薬baxdrostatの効果(解説:石川讓治氏)

治療抵抗性高血圧は、サイアザイド系利尿薬を含む3剤以上の降圧薬を用いても降圧目標に達しない高血圧と定義され、4番目の降圧薬としてアルドステロン受容体阻害薬が使用されることが多い。アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体阻害薬の投与下ではRAS系のbreakthroughが起こることがあり、治療抵抗性高血圧に対してアルドステロン受容体を阻害することが有用であると考えられてきた。アルドステロンは高血圧性臓器障害や線維化の重要な機序の1つであると考えられている。アルドステロンの合成酵素は、コルチゾールの合成酵素と類似を示しており、アルドステロン合成酵素阻害薬がコルチゾールの代謝に与える影響が懸念されてきた。

新型コロナウイルス感染症に対する経口治療薬の比較試験(ニルマトレルビル/リトナビルとVV116)(解説:寺田教彦氏)

本研究は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化リスクの高い軽症~中等症患者を対象とした、標準治療薬ニルマトレルビル/リトナビルと新規薬剤VV116との比較試験である。ニルマトレルビル/リトナビルは、オミクロン株流行下におけるワクチン接種者やCOVID-19罹患歴のある患者を含んだ研究でも、重症化リスクの軽減が報告され(オミクロン株流行中のニルマトレルビルによるCOVID-19の重症化転帰)、本邦の薬物治療の考え方(COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15版[2022年11月22日])やNIHのCOVID-19治療ガイドライン(Prioritization of Anti-SARS-CoV-2 Therapies for the Treatment and Prevention of COVID-19 When There Are Logistical or Supply Constraints Last Updated: December 1, 2022)でも重症化リスクのある軽症~中等症患者に対して推奨される薬剤である。しかし、リトナビルは相互作用が多く、重症化リスクがある高齢者や高血圧患者で併用注意や併用禁忌の薬剤を内服していることがあり、本邦では十分に活用されていないことも指摘されている。

true worldにおけるAMI治療の実態を考える(解説:野間重孝氏)

急性心筋梗塞(AMI)の治療成績・予後の決定因子としては、発生から冠動脈再開通までの時間(total ischemic time:TIT)のほか、年齢、基礎疾患や合併症、血管閉塞部位と虚血領域の大きさ、血行動態破綻の有無などが挙げられる。この中でもっぱら時間経過が改善項目として議論されるのは、他の因子は医療行為によっては動かすことができず、時間経過のみが可変因子であるからである。

HER2陽性進行乳がん2次治療におけるトラスツズマブ・デルクステカンがOSを延長(解説:下村昭彦氏)

2022年末のサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表され、Lancet誌に同時掲載されたDESTINY-Breast03試験の全生存期間(OS)の解析で、トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)のトラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)に対する優越性が統計学的に示された。DESTINY-Breast03試験は、HER2陽性乳がん2次治療におけるトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)とトラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)を直接比較した第III相試験である。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値は、OS解析時点で28.8ヵ月vs.6.8ヵ月(ハザード比[HR]:0.33、95%信頼区間[CI]:0.26~0.43)と、イベントが集まってきたことでT-DXd群のPFS中央値が明らかとなった(初回の解析時点ではT-DXd群のPFSは未到達であった)。副次評価項目の全生存期間(OS)はいずれの群も変わらず未到達であったが、OSのHR:0.64(95%CI:0.47~0.87、p=0.0037)であり、統計学的有意にT-DXd群で良好であった(前回の解析時点では有意差が示されなかった)。サブグループ解析でもすべてのサブグループでT-DXd群で良好な傾向を示し、T-DXdがHER2陽性乳がん2次治療の標準治療として確立した。