CLEAR!ジャーナル四天王|page:39

またも敗北した急性心不全治療薬―血管拡張薬に未来はないのか(解説:絹川弘一郎氏)-1124

急性心不全に対する血管拡張薬は、クリニカルシナリオ1に対しては利尿薬も不要とまで一時いわれたくらい固い支持があるクラス1の治療である。シナリオ2でもほどほど血圧があればafterloadを下げることは古くから収縮不全に悪かろうはずがないと考えられてきて、そもそもV-HeFT IやV-HeFT IIはvasodilatorがHFrEFの長期予後を改善するのではないかという(今では顧みられない)コンセプトで始まり、レニンアンジオテンシン系にたどり着いた歴史的経緯がある。

悪い芽は早めに摘んでとりあえずコンプリートしておきますか!?:多枝病変を有するSTEMIへの戦略(解説:中野明彦氏)-1123

STEMIにおける多枝病変の確率は40~50%で、STEMI責任病変のみの一枝疾患に比べ予後不良かつその後の非致死性心筋梗塞が多いことが報告されている。心原性ショックを合併していないSTEMI急性期に責任病変以外の“病変”に手を加えるべきかどうか、一定の見解は得られていても明確な回答が得られていない命題である。急性期介入の期待される利点は、STEMIによる血行動態の悪化が他病変灌流域の局所収縮性を障害することへの予防的措置、あるいはhibernation(冬眠心筋)を来している領域の心機能改善が結果としてSTEMIの予後を改善する可能性、などが挙げられる。

1ヵ月のDAPTとその後のP2Y12阻害薬によるSAPTが標準治療となるか?(解説:上田恭敬氏)-1122

合併症なく成功したPCI症例3,045症例を対象として、アスピリンとクロピドグレルによるDAPTを12ヵ月行う群(12ヵ月DAPT群:1,522症例)とDAPTを1ヵ月施行後にクロピドグレルによるSAPTに変更する群(1ヵ月DAPT群:1,523症例)に無作為に割り付けて、1年間の心臓死、心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症、出血イベントの複合エンドポイントを主要エンドポイントとする、多施設オープンラベル無作為化比較試験であるSTOPDAPT-2試験の結果が報告された。

重症域の妊娠高血圧症候群に対する経口降圧薬の効果比較(解説:三戸麻子氏)-1121

重症域の妊娠高血圧症候群に対する降圧加療として、ニフェジピン、ラベタロール、メチルドパという日常診療で頻用されている経口薬の降圧効果・副作用を直接比較している点が画期的である。また、緊急の降圧が必要な症例に対しては経静脈的な降圧加療が行われることも多いが、それがかなわない状況も考慮してすべて経口薬で行っている部分も斬新と思われる。Primary outcomeはニフェジピン群がメチルドパ群より有意に達成していたものの、ニフェジピンとラベタロールは同等であった。しかし、本研究では初回使用量がニフェジピン10mg、ラベタロール200mgのうえ、必要に応じて各々30mg、600mgまで増量しているということから、ラベタロールは本邦での使用よりも高用量で使用されていることに留意する必要がある。

甲状腺機能低下症患者に対する補充療法(解説:吉岡成人氏)-1120

甲状腺機能低下症は、日常の診療の中できわめて高頻度に遭遇する内分泌疾患である。日本においては臨床症状を伴う顕性甲状腺機能低下症の頻度は0.50~0.69%、TSHのみが上昇する潜在性甲状腺機能低下症の頻度は3.3~6.1%であり、女性に多い疾患である(志村浩巳. 日本臨床. 2012;70:1851-1856.)。TSHは加齢に伴い上昇することが知られており、潜在性甲状腺機能低下症の頻度は加齢とともに増加する。甲状腺機能低下症の原因としては、慢性甲状腺炎による原発性甲状腺機能低下症が大部分を占める。しかし、最近ではアミオダロン、炭酸リチウムなどの薬剤に加えて、免疫チェックポイント阻害薬によって発症することも、まれならず経験される。

多剤抵抗性骨髄腫に対する新規治療薬selinexor(解説:藤原弘氏)-1119

骨髄腫に対する新規治療薬の開発が進み、今では、プロテアソーム阻害剤(PIs)、免疫調節薬(iMIDs)、そして抗体薬をそれぞれ複数手にしている。そのうえで、より深い寛解を目指して自家移植を中心に、これら薬剤を組み合わせて、あるいは使い分けて、患者QOLを保ちながらOSを延ばすことに苦心している。その“How to”自体が1つの重要なclinical questionとなっている。さらには、シクロホスファミドをはじめ、CHOP療法のようなリンパ腫に準じた抗がん剤治療なども日常診療では選択する場合もあり、骨髄腫治療は本当に多岐にわたり、10年単位で骨髄腫患者さんとお付き合いできるようになった。一方でこの現実は、これら複数の薬剤に抵抗性となった骨髄腫に対する治療法の開発を必要とする状況を生んだ。

成人気管支喘息の重度悪化予防療法について(解説:小林英夫氏)-1118

今回指定された論文は、成人気管支喘息発作時の治療法によって重症増悪予防効果に優劣があるかどうかを検討したものである。登録885例の軽症・中等症では、発作時にブデソニド/ホルモテロール配合薬の頓用吸入群が、低用量ブデソニド維持療法+テルブタリン頓用吸入群に比べて、重度喘息増悪の予防効果に優れると報告している。本CLEAR! ジャーナル四天王では、845(2018年4月30日掲載)、1060(2019年6月11日掲載)、に続き3回目のSMART療法関連へのコメントとなる。SMARTに関しては上記845内で解説しているが、当初は否定的な意見があったものの約10年間の経験により、その非劣性効果はほぼ定まってきた。

蛇足の教え(解説:今中和人氏)-1116

SYNTAX試験は冠動脈3枝病変ないし主幹部病変症例に対する、バイパス手術と薬剤溶出ステントを比較した、まさにランドマークとなる多施設ランダム化試験で、予定観察期間の5年成績が公表されたのは2014年。死亡のほかに心筋梗塞、脳卒中、再血行再建などが解析され、ある程度の複雑病変(3区分でintermediateとなるSYNTAXスコア23以上)の症例にはバイパス手術が適切であると明瞭に示す、キレイな結果であった。循環器領域だけでも「この議論、いつまでやるんですか?」という案件はさまざまあれど、冠動脈疾患に対する治療法選択はその横綱格。SYNTAX試験の最終結果を見て、私などは「やっとこれで結論が出た」と半ば安堵する思いだったのだが、寡聞に過ぎた。あれから5年経ち、生命予後をさらに5年追跡したSYNTAX extended survival、すなわちSYNTAXES試験がこの論文である。

新しい抗うつ薬の出現(解説:岡村毅氏)-1117

まったく新しい機序の抗うつ薬に関する臨床からの報告である。まずは抗うつ薬についておさらいしてみよう。1999年にSSRIが使えるようになり、うつ病の薬物療法に革命的な変化が起きた。それまでの古典的抗うつ薬には抗コリン作用(便秘など)や抗ヒスタミン作用(眠気など)などが伴ったが、SSRIには消化器症状(吐き気など)以外は比較的少なかったからである。また、このころ(製薬業界にとっては黒歴史かもしれないが)うつはこころの風邪というキャンペーンがなされたりして、精神科・心療内科の敷居がずいぶん低くなった。うつはこころの風邪という言説は、今ではすっかり疾病喧伝(薬を売るために変な宣伝をしたという批判)の文脈で引用されるが、個人的には物事には両面があると思う。今では信じられないかもしれないが、「うつは弱い人がなるものだ」「精神科に行くなんて人生の破滅だ」と信じて、誰にも助けを求められずに重篤化する人もいたので、このキャンペーンによって救われた人もいただろう。

AIは洞調律の心電図から発作性心房細動を診断できるのか(解説:高月誠司氏)-1114

本研究は、発作性心房細動患者の洞調律の心電図と心房細動ではない患者の洞調律の心電図を人工知能(AI)に学習させ、洞調律の心電図からその患者が発作性心房細動か否か認識できるかを検証した。畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network)という画像や動画認識に多く用いられる方法を使った、AIによる10秒間の標準12誘導心電図解析の研究である。メイヨー・クリニックの45万4,789枚の心電図で自己学習させ、6万4,340枚の心電図で自己検証、そして13万802枚の心電図でテストが行われた。結果は感度82.3%(真陽性/[真陽性+偽陰性])、特異度83.4%(真陰性/[偽陽性+真陰性])、正確度83.3%([真陽性+真陰性]/全体)で、発作性心房細動を識別することに成功した。

多価不飽和脂肪酸に糖尿病の予防効果はあるか?(解説:小川大輔氏)-1115

多価不飽和脂肪酸にはオメガ3脂肪酸(魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸、また植物油に含まれるαリノレン酸など)とオメガ6脂肪酸(リノール酸、アラキドン酸など)が含まれる。PUFAには中性脂肪を低下する効果があることが知られている。一方、糖代謝や糖尿病の発症を防止する効果については有効と無効のどちらの報告もあり、一定の見解が得られていない。今回著者らはシステマティックレビューの研究を検索し、オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸、総PUFAの増加と2型糖尿病の予防および治療に対する効果をメタ解析により検討した。

腫瘍循環器病学の基礎研究の1つとなる論文(解説:野間重孝氏)-1113

腫瘍循環器病学(Onco-cardiology)という領域には、まだあまりなじみのない方が多いのではないかと思う。この領域が本格的に稼働し始めたのは今世紀に入ってからで、実際、最初の専門外来がテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター内に開設されたのは2000年の出来事だった。わが国で同種の外来が大阪府立成人病センターにおいて初めて設置されるには、その後10年を待たなくてはならなかった。こうした事情を考えると、この領域について少し解説を加える必要があるのではないかと思う。

高用量ビタミンD補充に関する検討:わが国の現状には参考にならない(解説:細井 孝之 氏)-1112

ビタミンDは骨代謝のみならず、免疫系などにも作用する重要なビタミンである。血中25水酸化ビタミンD濃度はビタミンDの充足度を反映する指標であり、日本内分泌学会が基準値を定め、その測定は最近骨粗鬆症にも保険適用となった。一方で、いまだにビタミンD不足(血中濃度30ng/mL以下)の方は非常に多く、少なくとも成人の食事摂取基準における1日摂取量の目安である5.5μgを確保したいところである。なお、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版では1日10~20μgの摂取を推奨している。

小児・思春期2型糖尿病患者におけるGLP-1受容体作動薬の有用性と安全性(解説:吉岡成人氏)-1111

2019年6月、米国食品医薬品局(FDA)は10歳以上の2型糖尿病患者に対してGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドの適応を承認した。米国において小児2型糖尿病治療薬が承認されるのは、2000年のメトホルミン以来のことである。わが国における『糖尿病診療ガイドライン2016』(日本糖尿病学会編・著)には、小児・思春期における2型糖尿病の治療薬について、メトホルミン(10歳以上)とグリメピリドを除いた薬剤は「『小児などに対する安全性は確立していない』ことを本人ならびに保護者に伝え、使用に際しては説明に基づいた同意を得るようにする」と記載されている。

心房細動アブレーションは患者の予後を改善するのか(解説:今井靖氏)-1110

本邦においても100万人近い心房細動患者が存在し、動悸、胸部不快感などの自覚症状をもたらすのみならず、脳塞栓、心不全の原因としても重要な疾患である。DOACの普及に伴い抗凝固療法の導入率が増加したが、その時流と並行して心房細動に対するカテーテルアブレーションも増加の途にある。リズムコントロールの手段として薬物療法に比して顕著に有効性が高く、薬物治療抵抗性、有症候性心房細動患者のQOL改善の手段として非常に優れた治療と考えられる。

TAVI周術期の脳卒中は減少していない(解説:上妻謙氏)-1109

経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は高齢者心不全の原因の1つとなっている大動脈弁狭窄症(AS)に対する根本的介入を行うもので、手術ハイリスク、超高齢者に対する治療として早くから第1選択となっていたが、すでに無作為化試験のエビデンスがそろって、米国FDAは手術低リスクの症例にまで適応を拡大した。本論文は米国の胸部外科学会(STS)と米国心臓病学会(ACC)の合同で行われている経カテーテル弁膜症治療に関するTranscatheter Valve Therapy(STS/ACC TVT)Registryデータを用いた、大規模データベース研究の結果である。

QRISK2スコアを用いた心血管リスク管理(解説:石川讓治氏)-1108

英国においては、心血管リスク予測指標としてQRISK2スコアが使用されており、Framinghamリスクスコアよりも心血管イベントの予測率が高かったことが報告されている。本研究においては、Herrettらは、英国のプライマリーケアにおける122万2,670名の患者の医療情報の後ろ向きコホート研究において、QRISK2スコア、英国の高血圧治療ガイドライン、血圧閾値単独の4つの手法を用いて、10年後の心血管リスクを推定した。その結果、10年間における1心血管イベント抑制のためのNNTは、QRISK2スコア27名、NICE2011 28名、NICE2019 29名、血圧閾値38名であり、QRISK2を用いた心血管リスク評価および管理が最も効果的であると報告した。

高血圧スクリーニングの脳心血管病予防効果から学ぶべきこと(解説:有馬久富氏)-1107

中国全土の高齢者を対象としたChinese Longitudinal Healthy Longevity Surveyの成績から、高血圧と診断されたことのない高齢者における血圧測定および発見された高血圧者に対する生活指導・受診勧奨が2~3年後の収縮期血圧を平均で8mmHgも低下させることが明らかとなり、BMJに報告された1)。一般住民における血圧がこれほど劇的に低下した場合、脳心血管病は20~30%減少するものと期待される2)。本研究で有効性の示された高血圧スクリーニングおよび指導は、健診が一般的に行われていない低・中所得国において、有効かつ費用対効果の高い脳心血管病予防戦略となると考えられる。

内側に限局する膝OAに対してはTKRよりPKRが望ましい?― TOPKAT試験より(解説:小林秀氏)-1106

内側型の末期変形性膝関節症(膝OA)に対する人工膝関節置換手術は、TKR(全置換)とPKR(単顆置換として知られる)の2種類に大別できる。TKRの多くは十字靭帯を切除し骨切除量も多くなるが、PKRでは内側コンパートメントのみを置換するため十字靭帯も温存でき骨切除量も少なく、早期回復が可能となる。TKRは古くから行われ、安定した長期成績が報告されているが、一方で患者満足度は約80%程度とされており、人工股関節手術に比べ術後満足度が低いことが知られている。近年PKRは、手術手技が改善され、侵襲の少なさから高い術後満足度が期待され普及しつつあるが、一方で手術適応(どこまでの変形に対して適応となるか)、長期成績、合併症の問題も懸念されるためか、施設によってはまったく施行されていないという現状がある。TKRとPKRの術後成績の比較は、適応のばらつきが大きく、確固たるエビデンスがほとんど示されていなかったため、今回のTotal or Partial Knee Arthroplasty Trial(TOPKAT)試験は多施設共同無作為化比較試験であり、これらの疑問に答える大変興味深い試験となった。

short DAPTとlong DAPTの新しいメタ解析:この議論、いつまで続けるの?(解説:中野明彦氏)-1105

PCI(ステント留置)後の適正DAPT 期間の議論が、まだ、続いている。ステントを留置することで高まる局所の血栓性や五月雨式に生じる他部位での血栓性イベントと、強力な抗血小板状態で危険に晒される全身の出血リスクの分水嶺を、ある程度のsafety margin をとって見極める作業である。幾多のランダム化試験やメタ解析によって改定され続けた世界の最新の見解は「2017 ESC ガイドライン」1)に集約されている。そのkey message は、