日本発エビデンス|page:25

COVID-19パンデミックは日本人のうつ病リスクにどの程度の影響を及ぼしたのか

 北里大学の深瀬 裕子氏らは、長期にわたるCOVID-19パンデミックが日本の一般集団におけるうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)の変化にどのような影響を及ぼしたかを評価し、そのリスク因子や適応/非適応戦略についても調査を行った。その結果、うつ病レベルは、パンデミックの初期段階で増大し、2022年1月には軽減したと考えられた。男性では、抑うつ症状を軽減するためには、経済的な状態を改善する必要があることが示唆された。パンデミックが長期間に及んだため、男女ともに適応戦略を特定することは困難であった。一方、PTSDについては、日本の一般集団において顕著な変化は認められなかった。BMC Psychiatry誌2023年3月20日号の報告。

認知機能低下の早期発見にアイトラッキングはどの程度有用か

 アルツハイマー病(AD)患者では初期段階から、眼球運動に反映されるように、視空間処理障害が認められる。杏林大学の徳重 真一氏らは、ビジュアルタスク実行中の視線動向パターンを評価することで、認知機能低下の早期発見に役立つかを調査した。その結果、いくつかのタスクを組み合わせて視空間処理能力を可視化することで、高感度かつ特異的に認知機能の低下を早期に検出し、その後の進行の評価に役立つ可能性があることを報告した。Frontiers in Aging Neuroscience誌2023年3月21日号の報告。

コロナ罹患後症状、睡眠障害が長期持続/日本呼吸器学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患後、長期にわたって症状が残存する患者が存在する。症状はさまざまであるが、その中の1つとして睡眠障害が挙げられている。そこで、中等症以上のCOVID-19患者を日本全国55施設で追跡した「COVID-19後遺障害に関する実態調査(中等症以上対象)」において、睡眠障害の実態が検討された。その結果、中等症以上のCOVID-19患者の睡眠障害が遷延していることが明らかになった。2023年4月28~30日に開催された第63回呼吸器学会学術集会において、佐藤 晋氏(京都大学大学院医学研究科 呼吸管理睡眠制御学講座 特定准教授)が発表した。

ブレクスピプラゾールの治療継続に影響を及ぼす8つの因子

 治療中止に関連する未知の因子の特定は、自然言語処理(NLP)のテクノロジーを用いて精神科電子カルテのテキスト情報を分析および整理することにより可能であると考えられる。千葉大学の伊豫 雅臣氏らは、NLPのテクノロジーを用いたMENTATによるデータベースを使用し、ブレクスピプラゾールの治療継続率および治療中断に影響を及ぼす因子の評価を試みた。その結果、ブレクスピプラゾールの治療中止と関連する可能性のある、8つの潜在的な新たな因子が特定された。著者らは、今後の統合失調症患者に対する治療戦略や治療継続率の改善につながるとまとめている。Schizophrenia Research誌オンライン版2023年3月27日号の報告。

歯の本数だけでなく、しっかりかめることが重要

 残っている歯が少なく、食べ物をしっかりかめないことが、主観的健康観の低下と関連していることを示すデータが報告された。ただし、残っている歯が少なくても、食べ物をしっかりかめる状態になっていれば、主観的健康観は低下していないという。山形大学医学部歯科口腔・形成外科の石川恵生氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に12月5日掲載された。  主観的健康観(self-rated health;SRH)は、BMIや血液検査の値などとともに、生命予後のリスクと関連のある因子の一つとされている。これまでに、残っている歯の本数(残存歯数)が少ないほどSRHが低く、全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが高いといったデータが報告されてきている。ただし、それらは主に高齢者を対象とする研究からのエビデンスであり、中年期成人の残存歯数とSRHの関連はよく分かっていない。また、残存歯数が少なくても、義歯などで適切に治療されていればSRHは低下せず、反対に残存歯数が多くても状態が悪ければSRHが低下する可能性が考えられるが、そのような視点での研究もほとんど行われていない。

閉経後HR+乳がんの術後アナストロゾール、10年vs.5年(AERAS)/JCO

 閉経後ホルモン受容体(HR)陽性乳がん患者に対する術後のアロマターゼ阻害薬の投与期間について、5年から10年に延長すると無病生存(DFS)率が改善することが、日本の多施設共同無作為化非盲検第III相試験(N-SAS BC 05/AERAS)で示された。岩瀬 拓士氏(日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院)らによる論文が、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年4月20日号に掲載された。

日本人救急医における不眠症・睡眠薬使用リスク

 救急医は、不眠症の有病率や睡眠薬の使用頻度が高いといわれている。救急医の睡眠薬使用に関するこれまで研究では、回答率の低さから、現状を十分に把握できていなかった。国際医療福祉大学の千葉 拓世氏らは、若手日本人救急医を対象に、不眠症の有病率および睡眠薬使用状況を調査し、不眠症や睡眠薬使用に関連する因子の評価を試みた。その結果、日本における若手救急医は慢性不眠症の有病率および睡眠薬の使用率が高く、慢性不眠症には長時間労働やストレスが、睡眠薬の使用には性別、婚姻状況、ストレスが関連していることが報告された。The Western Journal of Emergency Medicine誌2023年2月20日号の報告。

コロナに感染した医療従事者の3割は未診断―国立国際医療研究センター

 国立国際医療研究センターの職員を対象とする血清疫学調査の結果、2022年12月時点で4割近くの職員がこれまでに新型コロナウイルスに感染しており、その3割は未診断、すなわち感染に気付いていないことが明らかになった。同センター臨床研究センター疫学・予防研究部の溝上哲也氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiology and Infection」に3月8日掲載された。  国内の感染症治療の基幹病院である同センターは、COVID-19パンデミック発生以来、東京都新宿区の本院と千葉県市川市の国府台病院とで、職員の抗体陽性率を定期的に調査してきている。その調査には毎回、職員のほぼ80%が参加しており、悉皆性の高いデータを得られている。

妊娠中期のケトン体濃度が高いと産後うつリスクが高い

 妊娠中期の血清ケトン体濃度が、産後うつリスクの予測マーカーとなり得る可能性が報告された。北海道大学大学院医学院産婦人科の馬詰武氏、能代究氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に2月2日掲載された。  国内の妊産婦の死亡原因のトップは自殺であり、その原因の一つとして、産後うつの影響が少なくないと考えられている。うつ病を含む精神・神経疾患のリスク因子として栄養状態が挙げられ、脂質をエネルギー源として利用する際に産生されるケトン体が中枢神経系に有益である可能性が、基礎研究から示されている。また、妊娠中には悪阻(つわり)の影響で低血糖傾向になりやすいが、ケトン体の一種である3-ヒドロキシ酪酸が低血糖に伴う神経細胞のアポトーシスを抑制するという報告がある。さらに、3-ヒドロキシ酪酸はアルツハイマー病やパーキンソン病の進行を抑制する可能性が報告されているほか、てんかんの治療法としては古くからケトン産生食(糖質制限食)による食事療法が行われている。

子どもの朝食欠食も糖尿病リスクにつながる可能性――足立区の中学生で調査

 朝食を食べない成人は2型糖尿病のリスクが高いことが報告されているが、同じことが子どもにも当てはまるかもしれない。その可能性を示唆するデータが報告された。東京都足立区内の中学校の生徒を対象とした研究で、朝食欠食の習慣がある子どもは、交絡因子を調整後も糖尿病前症に該当する割合が有意に高かったという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に2月22日掲載された。  2型糖尿病は、あるとき突然発症する病気ではなく、血糖値が糖尿病の診断基準に至るほどではないものの基準値より高い状態、「糖尿病前症」(国内では糖尿病予備群とも呼ばれる)という段階を経てから発症する。

尿酸値の低さが腎機能の急速な低下リスクと関連――日本人の健診データの解析

 尿酸値が基準範囲内であっても低値の場合は、腎機能が急速に低下するリスクが高いという関連を示すデータが報告された。ただし、高齢者ではこの関連が見られないという。帝京大学ちば総合医療センター腎臓内科の寺脇博之氏らの研究によるもので、詳細は「Clinical and Experimental Nephrology」に2月11日掲載された。  尿酸値が高すぎる状態「高尿酸血症」は、痛風だけでなく腎機能低下のリスクとなる。しかし、それとは反対に尿酸値が低いことの腎機能への影響はよく分かっていない。尿酸には強力な抗酸化作用があるため、理論的には、尿酸値が低いことも腎機能低下リスクとなる可能性も考えられるが、そのような視点での研究報告は少ない。そこで寺脇氏らは、健診受診者のビッグデータを用いてこの点に関する検討を行った。

日本の父親・母親の産後うつ病リスクは?

 産後うつ病は、親に悪影響を及ぼすだけでなく、子供の認知機能、社会感情、行動発達などの障害につながる可能性がある。長崎大学の山川 裕子氏らは、出産後1年間の母親および父親の産後うつ病に関連する因子を調査した。その結果、父親と母親の双方にとって、ストレス対処スキルが産後1年間の産後うつ病に影響を及ぼす重要な因子であることが確認された。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2023年3月13日号の報告。

日本におけるオミクロン対応2価ワクチンの有効性~多施設共同研究/感染症学会・化学療法学会

 2021年7月より新型コロナワクチンの有効性を長期的に評価するために開始された多施設共同サーベイランス研究「VERSUS study [Vaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2]」の最新の結果について、4月28~30日に開催された第97回日本感染症学会総会・学術講演会/第71回日本化学療法学会学術集会合同学会にて、長崎大学の前田 遥氏が発表した。本結果により、国内の高齢者に対するオミクロン対応2価ワクチンの発症予防および入院予防の有効性が、国内の若年者および欧米のデータよりも高いことが示唆された。

CGRPモノクローナル抗体に反応しやすい日本人片頭痛患者の特徴

 抗カルシトニン遺伝子関連ペプチドモノクローナル抗体(CGRPmAb)は、頭痛障害が従来の予防的治療オプションに奏効しない片頭痛患者にとって有用な薬剤であると考えられる。しかし、日本国内におけるCGRPmAbの使用実績は2年と短く、治療反応が得られやすい患者とそうでない患者を治療前に判別することは困難である。慶應義塾大学の井原 慶子氏らは、CGRPmAbに奏効した日本人片頭痛患者の臨床的特徴を明らかにするため、リアルワールドデータに基づいた検討を行った。その結果、年齢が高く、過去の予防薬治療失敗の合計回数が少なく、免疫リウマチ性疾患の病歴のない片頭痛患者は、CGRPmAbに対する良好な治療反応が期待できることが示唆された。The Journal of Headache and Pain誌2023年3月9日号の報告。

若年乳がん患者、出産は予後に影響するのか~日本の傾向スコアマッチング研究

 若年乳がん患者の出産に関するこれまでの研究は潜在的なバイアスがあり不明な点が多い。今回、聖路加国際病院の越智 友洋氏らが傾向スコアマッチングを用いて、乳がん診断後の出産が予後に及ぼす影響を検討した結果、出産により再発や死亡リスクは増加しないことが示唆された。Breast Cancer誌2023年5月号に掲載。  本研究は、単施設での後ろ向きコホート研究で、2005~14年に乳がんと診断された45歳以下の患者を対象とし、診断後に出産した患者(出産コホート)104例と出産していない患者(非出産コホート)2,250例で無再発生存率(RFS)および全生存率(OS)を比較した。傾向スコアモデルの共変量は、年齢、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、乳がん診断前の分娩回数、エストロゲン受容体およびHER2の発現状態とした。

RAS野生型左側大腸がんの1次治療、パニツムマブ併用でOS改善/JAMA

 RAS遺伝子野生型の転移を有する切除不能大腸がんの1次治療において、標準的な化学療法に抗EGFR抗体薬パニツムマブを併用すると、抗VEGF抗体薬ベバシズマブを併用した場合と比較して、原発巣が左側大腸の患者と、全患者(原発巣が左側または右側大腸)の双方で、全生存期間(OS)が有意に延長したことが、横浜市立大学附属市民総合医療センターの渡邉純氏らが実施した「PARADIGM試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年4月18日号に掲載された。  PARADIGM試験は、日本の197施設が参加した非盲検無作為化第III相臨床試験であり、2015年5月~2017年6月の期間に患者の登録が行われ、2022年1月にフォローアップが終了した(Takeda Pharmaceutical の助成を受けた)。

東京五輪で一番けがの多かった競技は何か

 私たちに感動をもたらした「2020年東京オリンピック夏季大会」(2021年7月開催)。東京オリンピックの開催期間中、アスリート達にはどのようなけがや病気が多かったのであろう。国士館大学体育学部スポーツ医科学科の田中 秀治氏らの研究グループは、東京オリンピック夏季大会で発生したけがや病気を分析し、発表した。British Journal of Sports Medicine誌オンライン版2023年4月13日号に掲載。

CLDN18.2+HER2-進行胃がんの1次治療、zolbetuximab併用で予後改善/Lancet

 CLDN18.2陽性、HER2陰性で、未治療の切除不能な局所進行または転移のある胃腺がん/食道胃接合部腺がん患者において、CLDN18.2を標的とするモノクローナル抗体zolbetuximabとmFOLFOX6(5-FU+レボホリナートカルシウム+オキサリプラチン)の併用療法は、mFOLFOX6のみ投与と比較して、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に延長した。国立がん研究センター東病院の設楽 紘平氏らが、20ヵ国215施設で実施された国際共同第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SPOTLIGHT試験」の結果を報告した。著者は、「zolbetuximab+mFOLFOX6併用療法は、CLDN18.2陽性、HER2陰性の切除不能な局所進行または転移のある胃腺がんおよび食道胃接合部腺がん患者において、1次治療の新しい選択肢となるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2023年4月14日号掲載の報告。

腎臓のリスクを上げない飲酒量は?

 アルコールと疾患に関して過去のコホート研究では、アルコール摂取とタンパク尿と糸球体濾過量(GFR)低下を特徴とする慢性腎臓病との間に相反する関連性が報告されている。ただ、大量飲酒が腎臓に及ぼす影響を評価した研究は少なく、これまで一定の見解が得られていなかった。そこで山本 陵平氏(大阪大学 キャンパスライフ健康支援・相談センター)らの研究グループは、これまでに報告された疫学研究の結果を統合し、アルコール摂取量と腎臓病リスクの関係を解析した。その結果、1日60g程度(日本酒約3合)以上のアルコール摂取はタンパク尿リスクとなることを明らかにした。Nutrients誌2023年3月25日号に掲載。

身体活動が少なすぎ/多すぎの双方がメンタルヘルス不良と関連―日本人での横断研究

 身体活動の量や時間とメンタルヘルスとの間に、U字型の関連があるとする研究結果が報告された。東京医科大学精神医学分野の志村哲祥氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Psychology」に1月13日掲載された。  スポーツや運動、または仕事や家事なども含む「身体活動」は、一般的にはメンタルヘルスに良い影響を与えると考えられている。ただし、身体活動が多ければ多いほどメンタルヘルスがより良好になるのかという用量反応関係は不明。多すぎる身体活動がメンタルヘルスの悪化と関連しているとする報告もあるが、検証が十分行われておらず、最適な身体活動レベルも明らかになっていない。志村氏らはこのような状況を背景として、自記式アンケートを用いた日本人成人を対象とする研究を行った。