関節リウマチ治療薬への新たな期待 【アバタセプト全例調査 中間解析結果】

提供元:ケアネット

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公開日:2012/06/01

 



2012年4月に開催された第56回日本リウマチ学会総会・学術集会(JCR2012)において、アバタセプト(商品名:オレンシア)の使用成績調査(全例調査)の中間解析結果が報告された。これを受けて2012年5月25日、ブリストル・マイヤーズ株式会社による記者発表会が開催され、産業医科大学第1内科学講座の田中良哉氏によって講演が行われた。

関節リウマチとは?




関節リウマチは手指や膝など全身の関節に腫れや痛みが生じ、症状が進行すると関節破壊・変形が起こるため、生活や仕事に影響を及ぼす自己免疫疾患である。また、関節破壊は発症後、約2年間で急激に進むため、早期からの適切な治療が求められる。

日本の患者数は70万人とも100万人ともといわれ、30~40歳代の女性に好発する。

関節リウマチの診断基準




関節リウマチは関節破壊が起こる前に治療を開始することが求められるため、早期診断・早期治療を推奨することを目的に米国リウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)により、関節リウマチ分類基準(ACR/EULAR2010)が発表されている。

この基準によると、1ヵ所以上の関節腫脹を認め、他の疾患と鑑別された場合に、下記スコアリングによる分類基準において10点中6点以上であれば関節リウマチと診断される。

腫脹または圧痛関節数
1個の中~大関節   0点
2~10個の中~大関節   1点
1~3個の小関節   2点
4~10個の小関節   3点
11個以上の関節(1つの小関節を含む)   5点
血清学的検査
RFも抗CCP抗体も陰性   0点
RFか抗CCP抗体のいずれかが低値の陽性   2点
RFか抗CCP抗体のいずれかが高値の陽性   3点
滑膜炎の期間
6週未満   0点
6週以上   1点
急性期反応
CRPもESRも正常値   0点
CRPかESRのいずれかが異常値   1点

標的部位の異なる生物学的製剤




現在、関節リウマチ(RA)治療に用いられる生物学的製剤はTNF阻害剤が4製品、IL-6阻害剤とT細胞阻害剤がそれぞれ1製品発売されている。T細胞阻害剤であるアバタセプトは抗原提示細胞とT細胞間の共刺激シグナルを遮断し、T細胞の活性化とサイトカイン産生を阻害する薬剤である。これまでのTNFαやIL-6をターゲットとした生物学的製剤とはコンセプトの異なる薬剤として注目されている。

3,000例を目標とする全例調査




アバタセプトは使用実態下における臨床経過や有効性、安全性に関する情報を収集することを目的に全例調査の実施が承認条件となっている。2010年9月から症例登録が開始され、目標症例数は3,000例(24週の観察期間を終了する症例数)である。本中間解析では登録開始後の初期1,000例を対象として解析された。

<患者背景>
性別 男性18.1%、女性81.9%
平均年齢 61.4歳
生物学的製剤の使用歴 未使用27.2% 既使用72.8%
メトトレキサートの併用状況 非併用35.7% 併用64.3%

安全性について




有害事象は236例(23.6%)、うち重篤な有害事象は33例(3.3%)にみられ、副作用は160例(16.0%)、うち重篤な副作用は24例(2.4%)であった。有害事象のうち、重点調査項目であった重篤な感染症は8例、重篤な過敏症は1例、悪性腫瘍は3例であった。

また、生物学的製剤を投与する際には結核等の再燃が危惧されるが、本中間解析において結核の報告はなかった。なお、重篤な副作用発現に対するリスク因子として、リンパ球数1000mm3未満と体重40kg未満が示唆された。

バイオナイーブ群ではより高い改善効果




DAS28(CRP)*1平均値は投与前は4.34であったが、24週時点で3.32まで低下した。 SDAI*2、CDAI*3はそれぞれ投与前が23.9、22.1であったのに対し、投与後は14.6、13.5まで改善した。また、生物学的製剤による前治療の有無別にみると、既投与例ではDAS28(CRP)は4,36(投与前)から3.48(24週時点)へ低下したのに対し、未投与(バイオナイーブ)群では4.26(投与前)から2.84(24週時点)まで低下していたことから、バイオナイーブの患者でより大きな改善がみられた。

より高い治療効果への期待




全例調査の中間解析により、アバタセプトは比較的副作用の発現頻度が低く、安全性の高さが示唆された。また、田中氏は、「アバタセプトはバイオナイーブ症例で有効性が高く、他の生物学的製剤と遜色がなかったことから、生物学的製剤の第一選択となり得る」と考察を述べた。

アバタセプトの全例調査は承認条件が解除されるまで継続され、現在、長期使用における安全性や有効性に関する調査も実施されており、今後さらなるデータの蓄積が期待される。

*1 DAS28(CRP)
28の関節のうちの圧痛・腫脹関節数、患者による健康状態の評価、CRP(C反応性蛋白)による評価
*2 SDAI
28の関節のうちの圧痛・腫脹関節数、患者による全般評価、医師による全般評価、CRPによる評価
*3 CDAI
28の関節のうちの圧痛・腫脹関節数、医師による全般評価

(ケアネット 森 幸子)