社会生活の「生きにくさ」につながる大人のADHD

「仕事や作業を順序立てて行うことが苦手」、「落ち着かない。タバコやコピーなどで頻回に離席する」、「思ったらすぐに口に出したり行動に移したりしてしまう」―。程度の差こそあれ、思い当たる人は案外多いのではないだろうか。
近年、認識が広まりつつある大人のADHD(注意欠如・多動性障害)をテーマにしたメディアセミナー(ヤンセンファーマ株式会社主催)が8月26日、都内で開かれた。本稿では、同セミナーにおける東京慈恵会医科大学 精神医学講座准教授の小野 和哉氏による「大人のADHD」についての講演を紹介する。
ADHDは、脳内の情報処理ネットワークおいて何らかの課題がある障害と考えられており、具体的には(1)物事を実行する際の調整を行う系の障害(実行機能障害)、(2)後のことを考えて今のことを処理する系の障害(遅延報酬障害)、(3)時間的順序立てを考えて処理することに関する系の障害(時間処理障害)の3つが推定されてきた。しかし最近の研究では、症状が似ていても、これらのいずれにも当てはめられないケースがあり、症状の原因となる脳機能の障害は、完全には解明されていない。
ADHDは長らく小児期の発達障害の1つと考えられてきたが、その一部が持続した障害として残り、成人期のADHDに至ることが、最近になってわかってきた。冒頭の内容に思い当たる人であっても、自分自身で制御できるならば、ある程度問題なく社会生活を送ることができる。ところが、自分ではどうしようもなく、社会生活にうまく適応できない「生きにくさ」を感じるという人もいるという。
また、小児期には気付かず、学校や職場に出て初めてADHDであると気付くケースも少なくない。これは、小児期よりも成人期のほうが、社会生活の中で関わる人や情報が広範に及ぶため、処理すべきタスクが他人と異なったり、さまざまな考えの人たちと協調したりしていかなければならない場面も多く、障害に特有の不注意や多動性、衝動性が現れる機会が多くなることが理由として挙げられる。
もう1つの特徴は、成人期の場合、障害そのものより障害に起因する特有の行動の結果、不安や抑うつ、不眠などの症状が伴う点だ。具体的には、頻回のケアレスミスによる雇用機会の喪失や、対人コミュニケーションの難しさによる離婚などを経験し、前述のような主訴で受診するケースが多いという。
ADHDをめぐっては、現在のところ適切な診断の指標となるバイオマーカーはなく、12歳以前に遡ってADHDの症状がなかったかどうかについて問診を行うほか、他の疾患との鑑別にはスクリーニングツール「成人期のADHDの自己記入式症状チェックリスト(ASRS-v1.1)」を用いる。また、診断補助ツールとしてはCAADID(Conners’ Adult ADHD Diagnostic Interview For DSM-IV)などを用いる。
最後に、小野氏は、「こうした異なる主訴による受診がADHDの診断につながる大事な機会となる。大人のADHDの診断と治療は、自分の本当の力を発揮できず、自信をなくしている多くの人に、希望と新しい生き方をもたらす可能性がある」と指摘し、適切な対処が重要であると強調した。
(ケアネット 田上 優子)
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