インスリンは「最後の切り札」ではない

提供元:ケアネット

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公開日:2015/09/18

 

 9月10日、都内においてサノフィ株式会社は、持効型溶解インスリンアナログ製剤「ランタスXR注ソロスター」(9月7日発売)のプレスセミナーを開催した。
 セミナーでは、河盛 隆造氏(順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンター センター長)が、「私のインスリン物語」と題して、現在の糖尿病治療におけるインスリンの使用状況と今後の展望についてレクチャーを行った。

インスリンは世界を変えた
 はじめに河盛氏は、「1921年のインスリン発見は、世界を変えた発見である」として、インスリン発見とその後の製剤開発の道程をたどり、糖尿病治療の歴史を振り返った。
 健康な人では、体内に取り込んだブドウ糖をうまく利用できるよう、インスリンはグルカゴン分泌と調整して働いている。そのため、血糖値はほぼ一定であり、急激な変動はない。しかし、このバランスが崩れた状態が糖尿病であり、いかにインスリン分泌を高め、膵臓の働きを活性化させ、ブドウ糖を全身で利用できるようにするかが糖尿病の治療となる。
 2型糖尿病の薬物療法は、足らないインスリン分泌を、足らない時間帯に、足らない量を十分に供給し、さらに少ない内因性分泌インスリンを有効利用すべく、全身細胞でのインスリンの働きを高めることにある。
 また、現在わが国では約140万人がインスリン治療を行っているが、日本糖尿病学会が定めた血糖コントロールの目標値HbA1c 7.0%未満を達成できているのは、うち約20%である。その原因として、現在インスリンが糖尿病治療の切り札として使用されていることが挙げられ、内因性インスリンが回復可能な状態での治療期を逃しているが故に、本来のインスリンの効果がうまく発揮されていないのではないかとの示唆を投げかけた。
 そのうえで自験例として、他疾患で入院してきた2型糖尿病の患者の例を挙げた。本症例では、緻密なインスリン療法により正常血糖応答を維持したところ、内因性インスリン分泌が回復した。そのほか、退院後、わずかな経口糖尿病薬で、良好な血糖値のコントロールができるようになったケースも多くみられるという。それに加えて、血糖のコントロールが良くなると、他の疾患の予後も良くなるとの知見を語った。

切り札「インスリン」の早期活用
 糖尿病は徐々に進行する疾病であり、悠長に構えてはいられない。膵β細胞機能の維持、回復のためにインクレチン関連薬やDPP-4阻害薬などさまざまな経口治療薬が注目されている。しかし、膵β細胞機能の維持、回復で実績があるのはインスリンであり、早期使用による高血糖毒性の除去が望まれる。
 そのため、軽度のインスリンの働きの低下と食後過血糖を放置するべきではなく、発症直後からインスリンの使用も考慮に入れて、治療戦略を練ることが重要となる。
 確かにインスリン使用には、低血糖リスク、体重増加、注射薬への患者の心理的抵抗、アドヒアランスの問題など越えるべきハードルがある。しかし、近年のインスリンは低血糖を起こしにくいこと、体重増加は食事療法との併用で解決できること、インスリンデバイスもさまざまな改良が行われ、痛みがほとんどない針も発売されるなど、患者に利用しやすい環境になっている。
 今後のインスリン治療には、良好な血糖コントロール、低血糖リスクの低減、体重増加の影響が少ないことなどが望まれ、製薬メーカーも医療者や患者の要望に応える製品作りを行っている。
 こうした中で、先日発売された「ランタスXR」は、ゆっくりと体内に吸収されることで、従来のランタスよりも長時間にわたり効果が現れる。そのため、睡眠中の低血糖が起こりにくいだけでなく、1型・2型糖尿病の双方において、24時間・夜間ともに低血糖リスクが低いという特性を持つ、新しい基礎インスリンである。
 今後、手遅れになる前のインスリン使用により、膵β細胞機能の維持、回復に寄与し、より良好な血糖コントロールが実現されることを期待したい。

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サノフィ株式会社のプレスリリースはこちら。(PDFがダウンロードされます)
特集 糖尿病 外来インスリン療法

(ケアネット 稲川 進)