2015年12月17日都内(大手町)にて、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」についてのプレスセミナーが開催された(主催:一般社団法人 日本老年医学会)。
冒頭に、楽木 宏実 氏(日本老年医学会 理事長)は、「高齢化が進む今、小児科などの一部を除くほとんどの診療科において対象患者の大半が高齢者となっている一方、老年医学を知らない医師も多いのが現状」と述べた。
日本老年医学会は、これまで加齢や高齢者そのものを対象に医学・医療を研究し、その実践を医療界・社会に還元してきたが、今後も継続して超高齢化の波に対して適切な方向性や具体的な方策を示していく方針だ。今回、発刊となった「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」はその役割の一端を担う存在といえよう。
続いて、日本老年医学会の副理事長で本ガイドラインの作成WGの委員長、秋下 雅弘氏がガイドラインの内容について解説した。
本ガイドライン作成の背景として、以下の4点が挙げられる。すなわち「1.とくに要介護高齢者や後期高齢者のエビデンスが不十分である」、「2.専門領域以外の多疾患と多彩な病像、障害への対処が必要となってきている」、「3.医原性疾患が多く、過大または過小医療への懸念がある」、「4.急性期~慢性期病院、クリニック、介護施設、在宅医療など、医療現場が多様化しているといった高齢者に対する医療提供の難しさ」である。
秋下氏は、なかでも留意すべき点は高齢者の薬物有害事象と強調した。実際、高齢者の緊急入院の3~6%は薬剤が原因といわれており、とくに後期高齢者では15%を超えるという。これには以下の3つの要因が考えられている。
1.疾患上の要因
複数の疾患を有することによる多剤服用
2.機能上の要因
・臓器予備能の低下による過量投与
・認知機能、視力・聴力の低下によるアドヒアランス低下
・誤服用、症状発現の遅れ
3.社会的要因
・過少医療による投与中断
高齢者では、薬物吸収は変化しないが、分布、代謝、排泄の機能は低下するため、少量投与から開始し、長期的には減量も考慮する必要がある。東京大学医学部附属病院老年病科の研究によると、6剤以上を併用すると薬物有害事象の頻度は有意に高かったという。しかしながら、単純に薬剤の数を減らすのではなく、個々の患者の病態と生活機能、生活環境、意思、嗜好などを考慮し、優先順位をつける必要がある。
今回のガイドラインでは、高齢者の処方適正化スクリーニングツールとして、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」、「開始を考慮するべき薬物のリスト」が掲載されているのも大きな特徴である。本ツールは、75歳以上および75歳未満でもフレイル~要介護状態の高齢者で、1ヵ月以上の長期投与が必要となる患者を対象としており、利用対象は非専門領域の薬物療法を行う実地医家である。しかしながら、本リストに掲載されている薬剤であっても、すぐに中止するのではなく、同ガイドラインにある使用フローチャートにより判断することが望まれる。
今後、日本老年医学会は研修会、Web配信、学会英文誌への掲載、一般向けパンフレットの作成など、さまざまな啓発活動を進めていく予定である。本ガイドラインは今後もアップデートが行われる予定であり、最終的にはイベントとコストの関係を評価する必要があるだろう、と秋下氏は述べた。
※本ガイドラインは12月22日(火)、メジカルビュー社より刊行された。
(ケアネット 鎌滝 真次)