過去の大気汚染への曝露経験は、数十年経ってからの死亡率とも関連していることが、英国・Small Area Health Statistics Unit(SAHSU)のAnna Hansell氏らにより報告された。Thorax誌2016年4月号の掲載報告。
大気汚染の短期的・中期的な死亡率に対する影響は知られているものの、10年以上の長期的な影響を検討した研究は少なく、さらに曝露状況を複数の時点で測定したものはごく限られている。1952年のロンドンスモッグ事件に象徴される重度の大気汚染を経験した英国では、1950年代から1990年代まで大気質モニタリングを実施している。著者らは、そのデータを用いて大気汚染がもたらす長期の死亡リスクを評価するため、38年にわたる前向きコホート研究を行った。
対象者はOffice for National Statistics(ONS)に登録された英国出身・在住の36万7,658人で、居住地域とその地域で測定された黒煙(BS)、SO2(1971、1981、1991年)、PM10(2001年)の大気中濃度とのマッチングを行った。アウトカムは事故死を除く全死因死亡率、心血管系および呼吸器系疾患による死亡率のオッズ比(OR)が用いられた。年齢、性別、個人と居住地域の社会経済レベル、地理的要因、喫煙によるリスクを調整したうえで、区分線形モデルによる濃度反応曲線を用いて大気汚染が死亡率へ与える影響を評価した。喫煙によるリスクは、地域レベルでの肺がん死亡の相対リスクが用いられた。
主な結果は以下のとおり。
・曝露から数十年経過後も、BSおよびSO2への曝露と死亡率との間には関連がみられた。
・1971年時点でのBSへの曝露が、2002~09年における全死因死亡率(OR:1.02、95%信頼区間[CI]:1.01~1.04)、ならびに呼吸器系疾患による死亡率(OR:1.05、95%CI:1.01~1.09)と有意に関連していた。
・2001年時点でのPM10への曝露は、2002~09年における全アウトカムと関連しており、とくに呼吸器系疾患による死亡率との強い関連がみられた(OR:1.22、95%CI:1.04~1.44)。
(ケアネット 細川 千鶴)