少しずつではあるが、認識が広まりつつある大人のADHD(注意欠如・多動性障害)。8月5日、都内で日本イーライリリー株式会社がプレスセミナーを開催し、専門医によるADHDをめぐる診療の現状についての講演と、ADHD当事者およびその自覚のある著名人を招いたディスカッションを実施した。ディスカッションには、経済評論家の勝間 和代氏と書道家の武田 双雲氏が登壇。診断こそ受けてはいないものの、日常生活に関連してADHDとみられる特徴を自覚しているという両氏は、仲間のサポートの重要性を強調し、そのためには自身の自覚と共に、周囲への説明と理解を促す努力が不可欠であると訴えた。
ADHDとASD、診断の難しさ依然
はじめに「Know Yourself, Know ADHD~成人期のADHDについて」と題して行われた講演では、岩波 明氏(昭和大学医学部精神医学講座 主任教授)が臨床の立場からADHDの概論と診断をテーマに話をした。この中で岩波氏は、ADHDの診断を難しくしている要因の1つとしてASD(自閉症スペクトラム障害)を挙げた。ASDは、広汎性発達障害(PDD)とほぼ同義であり、アスペルガー障害や自閉性障害なども含む。ADHDとASDは、いずれも発達障害の中の分類であるが、両者の症状として現れる特徴はかなり類似しており、臨床的に区別が難しいケースも多いという。岩波氏によると、ADHDの有病率はASDの実に5~10倍にも上るとみられるとのことだが、ADHDは投薬による症状改善の可能性が見込める点でASDと異なるため、両者の正確な診断は非常に重要である。
「空気が読めない人」「変わり者」は特性か、症状か?
さらに、発達障害をめぐる根強い誤解もADHDの診断を難しくさせている。小児期に症状が顕在化していなかったために確定診断を受けていなくても、成人期になって就職などの場面で社会不適応を自覚して受診した結果、ADHDであると診断されることも実際には少なくないという。
また、発達障害には知的障害を伴うという“思い込み”が鑑別の妨げになっているケースもあり、最近の受診者の多くは正常以上の知的能力を持つ人も少ないという。そのような傾向から、本来はADHDの症状であっても、疾患の発現ではなく単なる「特性」として済まされがちであることも、昨今のADHDをめぐる社会の実情であると岩波氏は述べた。
「最も向いていない職業に就いてしまった」(勝間氏)
「会社員時代の不適応、今の仕事ではすべてプラスに」(武田氏)
続いて行われたディスカッションでは、岩波氏を進行役に、NPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)代表の広野 ゆい氏とNPO法人えじそんくらぶ代表の高山 恵子氏、前述の勝間氏と武田氏の5人が登壇し、ADHD当事者およびその特徴を自覚していることで日常的に困っていることや、その克服法などについて意見を交わした。
経済評論家としてメディアに頻繁に登場する勝間氏は、ADHDの症状の1つである「不注意」について強い自覚があり、日々のスケジュール管理や乗車券の管理などを自身だけでは一切行えないことを告白。19歳で公認会計士試験の2次試験に合格し、金融畑で輝かしいキャリアを積んだものの、本人曰く「ミスが許されない数字を扱うという、最も向いていない職業に就いてしまったという自覚があった」という。
一方、書道家として活躍する武田氏は、大学卒業後に通信会社の営業マンとして働いた後に書道家への転身を果たした異色の経歴。武田氏もまた、ADHDに特徴的な「衝動性」を強く自覚しており、営業マン時代はする事なす事に対し、徹底して叱られ否定される日々だったという。ところが、書道家としてクリエイティブの場に身を置いたことが大きな転機となり、「会社員時代の不適応が、同じ特性を持っていても、今の仕事ではすべてプラスに転化している」と語った。
両氏に共通しているのは、ADHD特有の「不注意」や「多動・衝動性」という特性を持ちながらも、彼らを強力にサポートしてくれる周囲の理解者の存在である。メディアで活躍する彼らには、公私共に支援者が多いため、ADHDに悩む一般の人と同様には考えられないだろう。しかし、支援者の協力や理解を得る前段にある「自身の特性を認め、自覚した」ことと、「困っていることを率直に周囲に打ち明け、理解を促す努力をした」という点については、大いに参考になりうるのではないだろうか。
(ケアネット 田上 優子)