患者さん負担を軽減するインスリン

提供元:ケアネット

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公開日:2016/11/02

 

 ノボ ノルディスク ファーマ株式会社は、10月13日都内において、同社の持効型インスリンアナログ インスリン デグルデク(商品名: トレシーバ注〔以下「本剤」という〕)の「用法・用量」の改訂に伴い、基礎インスリンの臨床知見に関するプレスセミナーを開催した。セミナーでは、インスリン治療の実際とともに、患者のインスリン治療への意識などのアンケート結果も発表された。

毎回定時にインスリン注射するのは難しい
 はじめに、「基礎インスリン治療におけるアドヒアランスの重要性及びアンメットニーズ」をテーマに原島 伸一氏(京都大学大学院 医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科 講師)が、講演を行った。
 インスリン治療中の糖尿病患者では、インスリンの生理的分泌動態を実現するために、食事・運動療法を基本としつつ、基礎インスリンを1日1~2回、定時に注射することが推奨されている。実際、インスリンアドヒアランス不良の患者では、HbA1cの値が高い傾向にあり、合併症リスクも増加するというレポートもある。

 日本・海外を対象にしたインスリン注射に関するGAPP調査(患者n=1,530、医師n=1,250)によれば、「インスリン注射をスキップした、医師の指示通り注射しなかった」と回答した日本人患者(n=150)は44%にのぼり、医師(n=100)の回答でも「指示通りにインスリン注射ができない患者がいた」と66%が回答している。
 また、「インスリン注射の困難な点について」では、日本・海外の患者は「毎日指示された時間や食事時にインスリン注射すること」と1番多く回答しているのに対し、医師は「毎日の注射回数」と回答するなど、意識の違いが表れている。
 望まれるインスリン療法としては、患者・医師双方とも85%以上が「注射し忘れたときにカバーできるインスリン療法」を望み、患者の日常生活の変化に適合するレジメンを求められていることが報告された1)
 実際、持効型インスリン注射の時間がずれた場合の影響を調べた研究によれば、約2時間程度のずれでは、血糖値のコントロールに有意差は認められなかったものの、ずれる時間が長くなるに従い、低血糖発現頻度の上昇と関連する可能性があることがわかっている。そのため、作用時間が長く、安定した持効型インスリン製剤が望まれると原島氏は指摘する。
 同氏は、「インスリンで治療中の患者さんの悩みとして、なかなか時間通りに注射できないという声が多く聞かれ、これが治療でのストレスになっている。今後安全性の高い、持効型インスリンがつくられることで、患者さんの不安の解消につながればと願う」とレクチャーを終えた。

患者さんの生活・労働環境に合わせられるインスリン
 続いて門脇 孝氏(東京大学大学院 医学系研究科糖尿病・代謝内科 教授)が、「トレシーバ注の新しい臨床的エビデンスと投与タイミングの柔軟性がもたらす臨床的な意義」をテーマに、患者さんのニーズに合った基礎インスリンの特徴について解説した。

 本剤は、24時間を超えて血糖降下作用が平坦で安定しているのが特徴で、患者さんの「インスリンの注射忘れ」の不安を和らげる。
 本剤の注射時刻を変更した投与法で有効性および安全性を検討したFlex(T1/T2)試験によれば、1型・2型糖尿病ともに投与時刻固定群と比較して、非劣性を証明できず、有意差を認めなかった。同様にわが国で行われた投与時刻固定群とフレキシブル投与群を比較したJ-Flex試験2)でも、HbA1cの推移においてフレキシブル投与群の非劣性を認めず、また、空腹時血糖の推移・すべての低血糖と夜間低血糖において、両群間に有意差が認められなかった。

 これらの臨床試験を受け、本剤の「用法・用量に関連する使用上の注意」が改訂・承認された。以前は「毎日一定の時刻に投与させること」とされていたものが、改訂後は「通常の注射時刻から変更する必要がある場合は、血糖値の変動に注意しながら通常の注射時刻の前後8時間以内に注射時刻を変更し、その後は通常の注射時刻に戻すよう指導すること」とされた。
 これにより、通常の投与時刻の前後8時間以内の投与が可能となり、患者さんの生活状況に合わせた、より現実的な治療ができるようになるという(原則は毎日一定の時刻である)。

 終わりに門脇氏は、「糖尿病治療の目標は、血糖、体重、血圧などの良好なコントロールの維持により、さまざまな合併症を阻止することで、健康な人と変わらないQOLの維持、寿命の確保である。そのためにも患者さんの生活環境や労働環境に合わせた治療薬の適正化は、患者中心の医療の実現に寄与する」と講演を結んだ。

(ケアネット 稲川 進)

参考文献

1)Peyrot M, et al. Diabet Med. 2012;29:682-689.
2)Kadowaki T, et al. J Diabetes Investig. 2016;7:711-717.

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