患者向け肺がん情報提供、理想とのギャップ

提供元:ケアネット

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公開日:2017/07/20

 

 2017年7月12日、都内で日本肺癌学会主催の第16回肺がん医療向上委員会が開催された。その聴講内容をレポートする。

 講演の前半では、世界肺癌学会(IASLC)の「ペイシェントアドボカシーアワード」を受賞した肺がん患者連絡会 代表 長谷川 一男氏が、昨年末にオーストリア・ウィーンで開催された第17回世界肺癌会議(WCLC2016)に参加した際の様子を紹介した。

 参加者が肺がんに関する自国の現状や課題を話し合うセッションでは、各国の課題が浮き彫りとなった。各国の事情はそれぞれ異なり、欧州からは治療の平等性・薬価・患者QOL、米国からは治療の格差・早期発見・スティグマ、そして日本からは情報の欠如・心理ケア・医師との連携が主な課題として挙げられた。「情報の欠如」については、海外で情報提供とみなされる患者への医薬品の資材提供が日本では広告として規制されることからも、その遅れがうかがえる。
 長谷川氏は、「患者向けにマスクされた情報よりも、臨床試験における副作用の頻度といった医療者向け情報のほうが欲しい」と、患者目線の意見を述べた。

 続いて、「医療用医薬品(抗悪性腫瘍薬)における広告規制と情報提供:最近の話題」と題して中央大学理工学部人間総合理工学科 教授の大橋 靖雄氏が講演を行った。国際的に患者とのパートナーシップが最重視されているにもかかわらず、患者が学会の企業ブースや詳細な薬の情報にアクセスできない日本の現状は恥ずべきだという。しかし、昨今美容整形や健康食品に対する規制が強まり、ますます「広告」と「情報提供」の線引きが難しくなっている。情報提供側の利益相反や患者のリテラシーといった課題が複雑に絡み合うなか、打開策はどこにあるのだろうか。

 「患者が意思決定する時代では、情報提供のあり方を考え直すべき」という長谷川氏。日進月歩で進むがんの領域は情報更新が追い付かず、トレードオフの関係にある情報の質と迅速さをどちらも担保することは容易ではない。患者向け肺がん情報提供における理想と現実のギャップを埋めるには、学会を含む多くの団体や企業間の連携が必要とされる。

(ケアネット 細川 千鶴)