2017年7月2日、コニカミノルタジャパン株式会社 ヘルスケアカンパニーは、都内において白石 吉彦氏(島根県 隠岐島前病院 院長)を講師に迎え、「外来超音波診療-腰痛 肩こり 五十肩のみかた-」をテーマに医師向けのセミナーを開催した。当日は、全国から100名近い医師が参加した。セミナーでは、事前アンケートで要望の多かった「腰痛、肩こり、五十肩」の3つに焦点をあて、動作分析による発痛源検索、超音波検査診断装置(以下「エコー」)を使用した圧痛点の確認方法、エコーでの筋肉同定、エコーガイド下注射の手技、針先描出などが説明された。
離島だからこそエコーをフル活用して診療に活かす
白石氏は、長年へき地での地域医療に従事し、2014年に「日本医師会 赤ひげ大賞」を受賞、現在も講演、執筆など精力的に活動する臨床医である。
離島という医療設備に制約のある地だからこそ見いだした、さまざまな臨床での知恵を、当日は惜しげもなくレクチャーした。
はじめに病院や院内の設備について説明。島は6,000人規模の医療圏で、8名の医師で運営し、プライマリケアをはじめ、本土に送るまでの最低限の医療を行える体制を整えているという。院内には、ポケットエコーも含め13台の超音波診断装置が稼働し、どの診療室、処置室でも、すぐにエコーができる態勢にある。日常診療では、ばね指の腱鞘炎の診療や粉瘤の処置にも使用している。
腰痛
腰痛の中でもまず急性腰痛症(いわゆるぎっくり腰)を取り上げ、痛み止めや腰痛ベルトではなく、別の治療の選択肢を提案した。レクチャーでは、前屈ができなかった患者さんが、エコー下で痛めている筋膜にキシロカインとビカネイトの混合液を注射することにより、前屈ができるようになった症例を紹介した。
また、圧痛点の確認にエコーと触診を組み合わせた診療を実技で示すとともに、解剖の見地から腰からつながる筋肉への注意(たとえば最長筋との関連など)、診療時の大腰筋への気付きなどを解説した。
五十肩
五十肩は、中年期に多い疾患であり、白石氏も年間90人程度の初診診療を行っている。通常X線検査が施行されるが、X線検査では特定の疾患しか診断できず、エコーにより診断の幅を大きく広げることができるという。たとえば、腱板断裂であれば、エコーで断裂部が明瞭に観察でき、治療がたやすくなる。石灰性腱炎であれば腱板の石灰化も容易に観察でき、洗浄もリアルタイムに部位を観察しながら的確に行えるなど、利点が多いことを説明した。
肩こり
肩こりは、厚生労働省の調査で女性の自覚症状有訴率で1位になるほど、日常診療で主訴の多い疾患である。原因の多くは不明であるが、姿勢の悪さや冷房などが挙げられているほか、講演では、眼鏡のずれや歯のかみ合わせ、靴のサイズ違いなども考慮する必要があると指摘した。
さらに治療では、筋膜性疼痛症候群(MPS)の概念を呈示し、説明を行った。MPSの治療では、肩甲挙筋の筋膜への生理食塩水の注射により、筋膜を剥離することで肩こりやしびれが治療できる。その際、エコーガイド下でリアルタイムに部位の確認を行えば、薬液が的確な場所に到達して、注入されているかどうかの判定に非常に役立つと症例を通じ紹介した。
いずれの疾患でも疾患概要の説明後、症例提示、診療ポイントの解説、実技によるエコー読影法の講義、そして質疑応答の手順でレクチャーは進行し、参加者は密度の濃い120分のセミナーに聞き入っていた。
(ケアネット 稲川 進)