Stage II~IIIAの非小細胞肺がん(NSCLC)切除患者では、プラチナベースの術後補助化学療法が標準治療である。しかし、他レジメンとの直接比較研究はない。一方、BRCA1は、二本鎖DNA切断を修復する作用を有し、またその発現レベルにより予後および効果予測因子ともなる。SCAT研究は、BRCA1発現レベルに基づき個別化した術後補助化学療法が上記患者の生存率を改善するかを評価したSpanish Lung Cancer Cooperative Groupの試験。横浜市で開催された第18回世界肺癌会議(WCLC)において、スペイン・Alicante University HospitalのBartomeu Massuti氏が結果を発表した。
BRCA1低発現ではシスプラチン感受性を示し、BRCA1高発現ではシスプラチン耐性、タキサン感受性を示すといわれる。この研究では、完全切除したStage II~IIIAのNSCLC患者500例を、コントロール群(108例)と試験群(392例)に、無作為に割り付けた。コントロール群には標準治療のシスプラチン+ドセタキセル治療を、試験群はBRCA1発現レベルにより異なる化学療法治療を行った。BRCA1低発現患者にはシスプラチン+ゲムシタビン、BRCA1中程度発現患者にはシスプラチン+ドセタキセル、高BRCA1高発現患者にはドセタキセル単独治療を行った。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無病生存期間、毒性などであった。
追跡期間中央値53ヵ月後のコントロール群のOSは69.3ヵ月、試験群では82.4ヵ月(HR:0.946)、5年OSは54%と56%と両群で同等であった。両群のBRCA1発現によるサブ解析の結果、BRCA1低発現群において、シスプラチン+ゲムシタビンのOSは74ヵ月、シスプラチン+ドセタキセルは40.1ヵ月と、シスプラチン+ゲムシタビンで有意に良好(HR:0.622、p=0.005)であった。一方、BRCA1高発現において、ドセタキセル単独のOSは80.2ヵ月、シスプラチン+ドセタキセルは未到達(HR:1.289、p=0.436)と、レジメンによる差は示されなかった。
結果として、BRAC1発現レベルに基づいた化学療法による生存率の上昇は示されなかったものの、BRCA1はコントロール群における唯一の予後因子であった。また、ドセタキセル単独療法は他の療法と比べ、コンプライアンスが良好で(p<0.001)、減量も少なく(p<0.01)、がんによる死亡発生率も同等であった。Massuti氏は最後に、高BRCA1患者において、プラチナを用いないタキサン単独による術後補助療法は、プラチナの短期・長期毒性を回避できる可能性があると述べた。
■参考
SCAT試験(Clinical Trials.gov)
WCLC2017プレスリリース
(ケアネット)