梅毒の届け出数は、2014年頃から急激な増加傾向にあり、昨年は年間報告数が44年ぶりに5,000例を超えた。今年は昨年をさらに上回るペースで増加しており、国立感染症研究所の発表によると、梅毒の累積報告数は8月22日集計時点ですでに4,221例となっている1)。日本医師会は9月5日の定例記者会見で、梅毒の感染経路を含む発生動向について解説するとともに、感染拡大への注意を促した。
都市部で圧倒的に多い梅毒の報告数、その原因は?
梅毒の年間報告数は長く1,000例以下で推移していたが、2011年頃から徐々に増加し、2014年頃からは男女ともに急激に増加している。2017年の梅毒の報告数を都道府県別にみると、東京都が1,777例と圧倒的に多く、次いで大阪府(840例)、愛知県(339例)、神奈川県(322例)と、都市部で多い。年齢別では、男性では20~40代、女性では20代の感染が目立っている
2)。
梅毒の感染経路ごとの報告数をみると、2014年頃までは同性間性交渉で感染した男性の増加が目立っていたが、以降は異性間性交渉で感染した男女がともに大きく増加している
3)。このことから、2014年以降の急激な梅毒の増加の原因には、異性間性交渉による感染があるとみられるという。また、2014年以降に梅毒の報告数が急増した岡山県岡山市での調査
4)では、2017年に異性間性交渉で感染した男性のうち、過去数ヵ月以内に風俗店の利用のあった患者は71.2%を占めており、女性では25.9%がCSW(コマーシャルセックスワーカー)であった。
厚生労働省では、梅毒の発生動向をより詳細に把握することを目的として、来年を目途に届出基準を改正する見通し。新たに届出事項として、性風俗産業の従事歴・利用歴や梅毒既往歴、妊娠の有無などを加える予定としている。
梅毒は診断が難しく、無症候期でも感染力あり
このような状況から日本医師会では今年8月、日本性感染症学会と協力して「梅毒診療ガイド」のダイジェスト版
5)を会員医師に配布している(下記リンクページから閲覧可能)。梅毒は感染後、典型的には3週間前後の潜伏期間を経て、まず侵入部位(外性器や口内など)に無痛性のしこり・潰瘍ができるが(第1期)、じきに消失するため、見逃されやすい。さらに、3ヵ月後頃には発疹(全身性だが、しばしば手のひらや足の裏に発現)がみられることが多いが(第2期)、こちらも自然に消失する。登壇した平川 俊夫常任理事は、「この症状があれば梅毒だと鑑別することは難しく、症状がない期間も感染力はある」と説明し、「全診療科の医師が、梅毒が増えているということを念頭において、非特異的な皮膚病変、あるいは皮膚以外でも説明がつかないような臓器病変を診たら、積極的に抗体検査を行って、梅毒の可能性を除外していくようにしてほしい」と呼びかけた。また陽性の場合には、パートナーの受診を医療従事者が積極的に推奨することも重要だという。
(ケアネット 遊佐 なつみ)