2018年9月29日に開催された第9回日本製薬医学会年次大会において、製薬企業におけるメディカルアフェアーズ(MA)とメディカルサイエンスリエゾン(MSL)の役割や期待に対する葛藤などについて、西村 剛氏(大日本住友製薬)、柴 英幸氏(アストラゼネカ社)、松本 志保氏(武田薬品工業)、向井 陽美氏(アッヴィ合同会社)が発表した。
メディカルアフェアーズが正しい臨床情報を創出
MAとは、セールスの評価を伴わず、自社製品における適正使用の推進や正しい臨床成績を出すための製薬企業の一部門である。医薬品は製剤情報をはじめ、市販後の情報が追加・付加されることで価値が高まっていく。創出した医学情報は治療の選択肢を増やすことにつながり、医療従事者や患者にとってメリットになる。そのため正しい臨床情報を創出することが重要である。
ところが、マーケティング&セールスの中でそれらに従事すると、正しい医学情報が創出しづらくなる。これを防ぐために、製品販売活動を担当する部署から独立したMA部門が、医学的または科学的な知識をベースに、医師などの医療従事者に必要な情報を創出、提供し、自社製品の医療価値を最大化させる。そうした部門のなかで、MSLは医学的・科学的な面から製品の適正使用や製品価値の至適化などを推進する役割を担っている。
近年では、社外での医学専門家、研究者等との医学的・科学的な議論や学会活動等を通じて、アンメットメディカルニーズ(UMN)の解決に寄与している。
メディカルアフェアーズの存在意義
自社のMA部設立当時から関わる西村氏は、現在のMAにおける課題を提示。「社内ステークホルダーにおいては期待と失望がみられるが、MA部門を確立するにあたっては、まずは社外ステークホルダーを優先して取り組み、信頼性の回復・向上、及び医療の質的向上への貢献を目指してきた。一例として、学会におけるタイムリ-な発表や論文投稿を積極的に行なっている」とコメントした。
続いて、松本氏がMSLの3つの役割(医師との医科学的交流、社内ステークホルダーへの貢献、エビデンスの創出)を示し、「活動のゴールを苦しんでいる患者におくことで、本当のUMNに触れるのではないか」と提言した。
社内のステークホルダーに焦点を置いて講演を行なった柴氏によると、「MSLの活動のゴールに対する認識に、営業を含む社内関連部署側と齟齬が生じることがある。MSLが出せる価値を認識してもらい、高いレベルでの情報提供や臨床研究に関わる適切な対応や運用/管理が達成されれば信頼関係が築ける」と述べ「ステークホルダーの方々の活動をどうサポートできるかだけに価値を見いだすのではなく、われわれMSLの活動結果自体が企業のゴールにどのような価値をもらたすのかを認知してもらうことが重要」と、MSL主体の行動が要であると強調した。これに関して、向井氏も「MSLは外にいれば良いわけではなく、自分たち自身の戦略・計画に対して理解し関わることが必要」とコメントした。
時には面会の際にMRと勘違いされるMSL。そんな彼らは臨床研究になくてはならない存在である。そして、臨床研究法が施行された今、MSLの活躍は益々期待される。“MSLです”と紹介された際には、MSLの役割や職務をぜひ思い出してほしい。
(ケアネット 土井 舞子)