米国・イーライリリー・アンド・カンパニーは、2型糖尿病治療薬デュラグルチド(商品名:トルリシティ)の国際共同試験「REWIND試験」において、主要心血管イベント(MACE※)の発現率を有意に減少させたことを発表した。
対象患者の7割は1次予防例で、GLP-1受容体作動薬では初めて、1次予防例を含む幅広い2型糖尿病患者における心血管(CV)イベントへの影響を評価した試験といえる。
※心血管死、非致死性心筋梗塞(心臓発作)、非致死性脳卒中から成る複合評価項目
REWIND(Researching cardiovascular Events with a Weekly INcretin in Diabetes)試験はCVイベント発現率について、デュラグルチド1.5mg※週1回投与とプラセボとを比較した多施設共同無作為化二重盲検比較試験である。主要評価項目はMACEの初発で、詳細データは、2019年6月に開催予定の米国糖尿病学会(ADA)にて報告予定である。
※国内におけるデュラグルチドの用法・用量は0.75mg/週
CVアウトカム試験における1次予防という壁
糖尿病患者でCVイベント発症リスクが高いことはよく知られている。そのため、EMPA-REG OUTCOMEやLEADER等で示された、薬剤によるCVイベント抑制作用には大きな注目が集まっている。一方、こうした試験の対象者はCV高リスクの2次予防例が多く、1次予防例が少ないことが指摘されていた。また1次予防例が多く含まれる試験でCVリスクを有意に減少させることは難しいとされてきた。
しかし、今回発表のREWIND試験の対象には、ベースライン時に心血管疾患の既往がない患者が69%含まれる。
これまでのGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験では患者の7割以上が心血管疾患の既往があり、その点、従来試験と正反対の背景を有する。
「HbA1c 9.5%以下」を対象とした点が鍵
デュラグルチドの国際共同試験であるREWIND試験は、他のCVアウトカム試験同様、心血管疾患の既往またはリスク因子を有する2型糖尿病患者9,901例が対象。
患者の選択基準は、以下であった。
(1)経口血糖降下薬(1~2剤)±基礎インスリン、もしくは基礎インスリン単独での治療を受けている患者
(2)HbA1c 9.5%以下
(3)50~54歳で、心血管疾患既往を有する患者
(4)55~59歳で、心血管疾患既往、もしくは心血管疾患または腎疾患の徴候を1つ以上有する患者
(5)60歳以上で、心血管疾患既往、もしくは心血管疾患のリスク因子を2つ以上有する患者
このうち特徴的なのは「(2)HbA1c 9.5%以下」という基準だ。他のGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験ではHbA1c値の上限を設定しておらず、REWIND試験で初めてHbA1c値の上限が設定された。
1次予防例7割、前例がないデュラグルチドのCVアウトカム試験
HbA1c値の規定の違いにより、従来のGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験と異なる対象患者が組み入れられ、結果的に対象者の7割が1次予防例という、かつてないCVアウトカム試験が設定された。ベースラインの平均HbA1c値も7.3%と、比較的低い値になっている。
さらに1次予防例が多いことでイベント発症までの期間が延長され、追跡期間中央値は5.3年と、GLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験としては最長となっている。
1次予防例を7割含む、2型糖尿病患者におけるCVイベント抑制を報告したGLP-1受容体作動薬のCVアウトカム試験は前例がない。今回、米国・イーライリリー・アンド・カンパニーは、REWIND試験においてMACEの発現率を有意に減少させたことをいち早く発表した。現段階で明らかなのは試験概要と患者背景のみで、詳細結果は不明だが、デュラグルチドによってCVイベント抑制が示されたことは注目に値する。
REWIND試験の詳しいデータおよび結果は、2019年6月のADAで発表される予定である。
(ケアネット 佐藤 寿美)