ファイザー株式会社は、ダコミチニブの承認にあたり、本年(2019年)2月、都内で記者会見を開催した。その中で近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 中川 和彦氏と国立がん研究センター中央病院 先端医療科長/呼吸器内科 山本 昇氏がEGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)治療とダコミチニブについて紹介した。
2000年時点のNSCLCの標準治療はプラチナ併用化学療法で、当時の全生存期間(OS)は約1年だった。昨年、オシメルチニブが1次治療薬に承認となったEGFR変異陽性NSCLCは、無増悪生存期間(PFS)でさえ19.1ヵ月1)となった。EGFR-TKI、化学療法と治療選択肢が増えるなか、「EGFR陽性NSCLCの今の問題は、治療シーケンスである」と、中川氏は述べる。
ダコミチニブの効果と安全性
そのような中、2019年1月8日にダコミチニブ(商品名:ビジンプロ)が承認になった。ダコミチニブはEGFR(HER1、ErbB1)だけでなく、HER2、HER4も不可逆的に阻害する第2世代EGFR-TKI。今回の承認は、
EGFR変異陽性NSCLCの1次治療における国際共同無作為化非盲検第III相ARCHER1050を中心とした複数の臨床結果に基づくもの。この試験でダコミチニブはゲフィチニブに比べPFS、OSの改善を示した。主要評価項目であるPFSは、全集団においてダコミチニブ群14.7ヵ月、ゲフィチニブ群9.2ヵ月(HR:0.59、95%CI:0.47~0.74、p<0.0001)。日本人集団では、ダコミチニブ群(n=40)18.2ヵ月、ゲフィチニブ群(n=41)9.3ヵ月(HR:0.544、95%CI:0.307~0.961、p=0.0163)と、いずれもダコミチニブ群で有意に改善した。全生存率はダコミチニブ群34.1ヵ月、ゲフィチニブ群26.8ヵ月と、ダコミチニブ群で良好であった(HR:0.780、95%CI:0.582~0.993)であった(日本人集団は未達)。
一方、安全性について。ダコミチニブ群は皮膚系統(爪囲炎、ざ瘡様皮膚炎など)の有害事象が多いことが特徴である。有害事象の発現時期は早く、代表的な副作用である下痢、口内炎、ざ瘡様皮膚炎の初回発現の時期は全集団で7~14日、日本人集団で5~10日であった。また、ダコミチニブ群では減量例が多くみられ、減量経験のある患者の割合は全集団で66.1%、日本人集団では85.0%であった。相対用量強度は全集団で平均73.3%、日本人集団では55.7%という数値であったが、「この用量強度でも十分な効果(PFS)を示すことから、十分な副作用管理と用量調整が重要」と山本氏は述べた。
2018年ガイドラインの選択肢としていかに活用するか
ダコミチニブは、「肺癌診療ガイドライン2018」にもEGFR変異陽性の1次治療に選択肢の1つとしてあげられている(CQ.51 b:ダコミチニブを行うよう提案する:2B)。
EGFR変異陽性NSCLCの生命予後は大きく向上しており、「複数の治療選択肢を効率よく適用することが、患者の予後改善、QOL維持に重要。ダコミチニブは新たな選択肢として期待できる薬剤」と山本氏は言う。
ダコミチニブの日本人集団におけるPFSはオシメルチニブに匹敵する。ダコミチニブを有効に活用するポイントとして山本氏は次のように述べる。まず治療前に治療の適用を見極めること。それにはARCHER1050試験の選択・除外規準が参考になる。そして、治療開始後には減量を含めた早期の副作用対策である。一方、中川氏は減量について、「用量強度が多少低くても長く続けられることが重要」だと述べる。国際臨床試験において、日本の医師は早期に減量・休薬する傾向にある(ARCHER1050試験でも減量開始時期は全体の12週に対し日本人では8.79週)。しかし、結果としてこれが日本人集団の有効性の高さにつながっている可能性があるという。
EGFR変異陽性NSCLCの1次治療にダコミチニブが参入した。さらなる予後改善のため、この後、より良い治療シークエンスの開発が期待される。
1)
Ohe Y, et al. Osimertinib versus standard-of-care EGFR-TKI as first-line treatment for EGFRm advanced NSCLC: FLAURA Japanese subset. Jpn J Clin Oncol. 2019;49:29-36.
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(ケアネット 細田 雅之)