重症僧帽弁逆流症は、心不全などを引き起こし、死亡とも関連する。しかしながら、開心術による弁の置換や修復の候補とならない患者も存在する。経カテーテルによる僧帽弁修復は、解剖学的に適した患者であれば安全で有効な手段であるが、多くの患者は解剖学的に適さず、修復が難しかったり、不成功や一時的なものであったりする。本研究は経皮・経中隔的僧帽弁置換術の実用性について評価したもので、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のJohn G. Webb氏らがJournal of American College of Cardiology誌2019年3月号に発表した。なお、複数の著者は、今回の研究で用いられた人工弁を提供したEdwards Life Science社からコンサルフィーや研究サポートフィーを受けている。
ニチノールドックとバルーンを用いて拡張する心臓弁を用いたシステム
ヒトに対する最初の研究は2017年8月~2018年8月の間に行われた。この新しいシステムは僧帽弁腱索を囲むニチノール(ニッケルチタン合金)ドックと、バルーンを用いて広げられる経カテーテル心臓弁からなる。ドックと経カテーテル心臓弁は一体となって機能し、両者の間に患者の僧帽弁を挟みこむことで僧帽弁逆流をなくす。
対象は重症症候性僧帽弁逆流症、一次エンドポイントは手技成功率
主な選択基準は重症、症候性の僧帽弁逆流症で開心術のリスクが高い患者。左室駆出率が30%未満、あるいは術前のスクリーニングで解剖学的に望ましくないと判断された症例は除外された。一次エンドポイントは、僧帽弁学術研究団体(Mitral Valve Academic Research Consortium:MVARC)の基準で定義された、手技終了時における手技成功率。二次エンドポイントは、30日時点での生存率、非発症率そしてデバイスの不具合(僧帽弁逆流のグレード>1、僧帽弁の圧較差>6mmHg、左室流出路の圧較差>20mmHg)であった。
10例中9例で僧帽弁の植込みに成功
10例の、さまざまな原因による重症僧帽弁逆流症患者(変性性4例、機能性4例、混合型2例)が治療を受けた。10例中9例(90%)でデバイスが植込まれ、一次エンドポイントにおいて、手技の成功と認められた。植込みが成功した全例において、経食道的エコーで僧帽弁逆流はtrivial(わずか)以下に減少し、平均圧較差は2.3±1.4mmHgであった。心嚢液貯留が1例に認められ、心嚢穿刺が行われため、デバイスの植込みは実施されなかった。平均入院期間は1.5日であり、30日時点で脳梗塞、心筋梗塞、再入院、左室流出路の閉塞、デバイスの移動、塞栓症、開心術への変更はなかった。弁周囲からのリークに伴う逆流が認められた症例が1例あり、閉鎖デバイスを用いてリークの治療を行った。それ以外の全例において、僧帽弁逆流のグレードは≦1となった。死亡例も認められていない。経皮・経中隔的僧帽弁置換術は、開心術のリスクが高い患者に対して施行可能な手技で、安全に行うことができたといえる。
画期的な治療法ではあるが、症例数が10例と少なく、臨床において広く使えるのかについては今後、さらなる評価が必要である。
(Oregon Heart and Vascular Institute 河田 宏)
関連コンテンツ
循環器内科 米国臨床留学記