昨年発売された抗インフルエンザウイルス薬のバロキサビル(商品名:ゾフルーザ)は、臨床試験において、本剤に対する感受性が低下したPA/I38アミノ酸変異株の発現が報告されたことから、各国でその影響について検証が進められている。
2019年9月2日、塩野義製薬は、バロキサビルの特定使用成績調査におけるPA/I38アミノ酸変異株に関する結果を公表した。この内容は8月28日~9月1日にシンガポールで開催されたOptions X for the Control of Influenza(OPTIONS X)にて発表された。同学会では、1 歳以上12 歳未満の小児インフルエンザ患者に対するグローバル第III相試験、インフルエンザ発症抑制効果を検証した国内第III相試験の結果も報告された。
わが国の特定使用成績調査におけるPA/I38アミノ酸変異株
OPTIONS Xでは、2018-2019シーズンに実施されたバロキサビルの特定使用成績調査における、PA/I38アミノ酸変異株に関する結果を、齋藤 玲子氏(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 教授)が発表した。本調査の対象は、国内6医療施設を受診しバロキサビルの投与を受けた20歳以下のA型インフルエンザ患者96例で、A/H1N1pdm型が32例、A/H3N2型が64例だった。
主な結果は以下のとおり。
・バロキサビル投与3~6日後(再診時)におけるPA/I38Tアミノ酸変異株は、A/H1N1pdm型感染患者の6.3%(2/32例)、A/H3N2型感染患者の10.9%(7/64例)で検出された。同様に、PAタンパク質のどこかに変異の入った株の出現頻度は、それぞれ12.5%(4/32例)および14.1%(9/64例)だった。
・解熱までの平均時間は、再診時にPA/I38Tアミノ酸変異株が検出された患者(9例)では0.99±1.21日、変異のないウイルス株が検出された患者(21例)では1.02±1.06日、インフルエンザウイルスが検出限界以下であった患者(62例)では0.76±0.86日で、PA/I38Tの変異による差は認められなかった。
・患者より単離したPA/I38変異株は、バロキサビルに対する感受性がおよそ1/50~1/250に低下していたが、これらの患者個別の解熱までの時間はいずれも1日程度だった。
小児における有害事象と有効性
同学会では、適応追加に向けた第III相試験の結果も報告された。1つは、1歳以上12歳未満の小児インフルエンザ患者を対象とするMINISTONE-2試験で、本試験はRocheグループによる多施設共同、無作為化、二重盲検比較のグローバル第III相試験である。
主要評価項目として、被験薬投与後29日目までに有害事象(重篤な有害事象を含む)を示した被験者の割合が検討された。その結果、1つ以上の有害事象を示した被験者の割合は、バロキサビル群で46.1%、オセルタミビル群で53.4%だった。本試験で示された小児における安全性プロファイルに、これまでに実施された成人・青少年における試験結果との矛盾はなかった。
さらに、副次評価項目としてバロキサビルの有効性をオセルタミビルと比較した結果、インフルエンザ罹病期間の中央値は、バロキサビル群で138.1時間、オセルタミビル群で 150.0時間だった。一方、体内からのウイルス排出期間の中央値は、バロキサビル群24.2時間、オセルタミビル群75.8時間で、バロキサビルはウイルス排出期間を短縮した。
国内予防投与試験の結果、インフルエンザ発症が86%減少
日本でバロキサビルの予防効果を検討したBLOCKSTONE試験の結果も報告された。本試験は、インフルエンザ患者(初発)の同居家族または共同生活者750例を対象に実施した、多施設共同、無作為化、プラセボ対照二重盲検比較の第III相試験である。
主要評価項目として、被験薬を予防投与後10日間でインフルエンザを発症した被験者の割合が検討された。その結果、インフルエンザウイルスに感染し、発熱かつ呼吸器症状を発現した被験者の割合は、バロキサビル群1.9%(7/374例)、プラセボ群13.6%(51/375例)であり、バロキサビルの投与により、インフルエンザの発症割合はプラセボ群に対し86%減少した(p<0.0001)。
また、サブグループ解析により、重症化および合併症を起こしやすいリスク要因を持つ被験者および12歳未満の小児においても、バロキサビルはプラセボに対し発症抑制効果を示し、ウイルスの亜型やワクチン接種の有無にかかわらず有効だった。
有害事象の発現率は、バロキサビル群22.2%、プラセボ群20.5%で、バロキサビル群において重篤な有害事象の発現は認められなかった。
(ケアネット 堀間 莉穂)