ペムブロリズマブと化学療法の併用は、PD-L1陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の初回治療において、化学療法に比べ著明な生存ベネフィット効果を示す。しかし、その毒性はペムブロリズマブ単剤に比べ高い。そのため、実臨床において、PD-L1 50%以上のNSCLC患者にペムブロリズマブ単剤を用いるか、化学療法との併用を用いるか、その判断は難しい。加えて、それらの試験対象は良好な状態の患者であり、その結果は実臨床の状況を完全に反映しているとは限らない。
そのため、実臨床においてペムブロリズマブ単剤が適合する患者を特定するとともに、多様な患者におけるペムブロリズマブ単剤の効果と安全性を評価することを目的に、Hanshin Oncology critical Problem Evaluate group(HOPE)の11施設で、多施設後ろ向きコホート研究を実施している。その第2回解析の結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)において、大阪国際医療センターの田宮 基裕氏が発表した。
主な結果は以下のとおり。
・2017年2月1日~2018年4月30日に213例の患者が登録された。年齢中央値は71歳、男性が176例(82.6%)、ECOG PS0~1が172例(80.8%)であった。
・PD-L1はTPS50~74%が97例(45.5%)、75~89%が55例(22.1%)、90~100%が69例(32.4%)であった。
・Grade3以上の有害事象(AE)は39例(18.3%)に発現した。頻度の高い重篤なAEは肺炎(10例、4.7%)であったが、死亡患者はいなかった。
・全奏効率は51.2%、病勢コントロール率は73.2%であった。
・無増悪生存期間(PFS)中央値は8.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.0~10.7)、全生存期間(OS)中央値は17.8ヵ月(95%CI:17.8~NA)であった。
・単変量解析では、ECOG PS(0~1対2以上のハザード比[HR]:2.11、p=0.00061)、炎症CRP/ALB(0.3未満対0.3以上のHR:1.88、p=0.00148)、およびステロイド使用(使用なし対使用のHR:3.17、p=0.00034)が、ペムブロリズマブのPFSと有意な相関を示した。
・多変量解析では、ECOG PS(0~1対2以上のHR:1.69、p=0.03138)、CRP/ALB(0.3未満対0.3以上のHR:1.92、p = 0.00153)、ステロイド使用(使用なし対使用のHR:2.94、p=0.00267)、PD-L1(50~89%対90~100%のHR:0.65、p=0.04984)が、ペムブロリズマブのPFSと有意な相関を示した。
この研究では、患者背景はさまざまであったが、結果は以前の主要な臨床試験の有効性と安全性と一致していた。また、PS不良、高炎症状態(CRP/ALB≥0.3)、およびペムブロリズマブ治療開始時のステロイド使用は、より短いPFSと独立して相関していた。
発表者の田宮 基裕氏との一問一答はこちら。
この試験を実施した理由はどのようなものですか。
KEYNOTE-024、042など、ペムブロリズマブ単剤の1次治療のデータは治験のデータが多く、リアルワールドのデータはあまりありません。さまざまな患者が含まれるリアルワールドデータをいち早く出したいと考え、関西を中心に、肺がん診療を行うアクティブな先生方を集め、この試験を計画・実施しました。
この試験でのサバイバルの結果をどう思われますか。
今後、長くみていくと、もう少し落ちてくるとは思いますが1年のOSが7~8割ですし、PFSも40%でテールを引いているので、全体的に良好だと思います。
PD-L1のカットオフを90%にしていますが。
Annals of Oncologyなど海外ジャーナルでも、PD-L1 90%以上でデータが報告されています。自分たちも実際にやってみると、差が出たのは90%でした。本研究のPD-L1超高発現の研究は、現在、大阪大学に勤務されている枝廣先生が、さらに詳しくPLOS ONEにて報告しております。
1次治療でもステロイドが入っている患者さんがいらっしゃいますね。
初回治療なのであまり入っていないと思っていたのですが、少しおられますね。喘息など自己免疫疾患の患者さんにはペムブロリズマブが使われないことが多いので、食欲不振、PS不良、疼痛、脳転移などで使われていることが多いと思います。
試験で苦労したことはどのようなことですか。
まずはデータを集めることです。アクティブな先生方に集まっていただいたとはいえ、リアルワールドではさまざまなデータが入ってきます。早くデータを出すために、結果として何を出すのか、事前にかなり検討しました。また、データの収集・解析には非常に労力がかかります。協力施設の先生方には、日常業務の中、そういう厳しい仕事をしていただきました。苦労した先生方にも恩恵が出るようにしようと考え、共同演者としてお名前を出さしていただいております。また、今後も、協力施設の先生方からも本研究のデータを用いた論文が出る事を期待しています。
この研究は今後も継続されるのでしょうか
今回は第2回のデータ解析ですが、今後第3回の解析を行い、さまざまな角度から発表していきたいと思います。
なお、この研究結果は、Investigatoinal New Drugs誌8月7日号オンライン版に発表されている。
(ケアネット)