東京2020で発生しうる患者とその対応策/日本救急医学会

提供元:ケアネット

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公開日:2019/10/15

 

 東京2020オリンピック・パラリンピックの開催まで300日を切った。この開催を迎える上で医学的に重要なのは、熱中症やインバウンド感染症、そしてテロへの対策ではないだろうか。そこで、医学系学会のうち25団体(2019年10月現在)が“2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急・災害医療体制を検討する学術連合体(コンソーシアム)”を結成。リスクを想定し、対策に取り組んでいる。

 この構成団体の中のうち、日本救急医学会ほか5学会(日本臨床救急医学会、日本感染症学会、日本外傷学会、日本災害医学会、日本集中治療医学会)と東京都医師会の担当委員が、2019年10月2~4日に開催された第47回日本救急医学会総会・学術集会のパネルディスカッション8「2020年東京オリンピック・パラリンピックに関わる救急・災害医療体制を検討する学術連合体の活動現状と今後の展開について」にて、各学会の委員会活動の進捗を報告した。

オリンピックは特別な状況
 日本臨床救急医学会の溝端 康光氏(大阪市立大学大学院医学研究科 救急医学)は、日本臨床救急医学会が昨年12月に『熱中症』ガイドラインと『訪日外国人医療』ガイドラインを発刊したことを報告。現在、熱中症に関する診療には日本救急医学会が作成した『熱中症診療ガイドライン2015』の利用が推奨されているが、新たに発刊された両ガイドラインは初期対応や救急外来受診時間の傾向、外国人対応医療機関の検索、医療通訳、宗教背景、帰国時手続きなど、オリンピックが終了した後でも問題になりうる内容も踏まえ、経験豊富な学会員によって執筆されたという。

 日本感染症学会の佐々木 淳一氏(慶應義塾大学医学部 救急医学)は、過去の夏季オリンピックから実際の患者数を疾患別に分析し、「胃腸炎患者が最も多かった」と報告。感染症対策として、“救急外来部門における感染対策チェックリスト”やインバウンド感染症対応のための“感染症クイック・リファレンス”作成について説明した。

銃創・爆傷患者が運ばれてきたら…
 オリンピックではテロの危険性も高まる。テロによる銃創や爆傷は1分1秒を争う状況を要するため初動がとくに重要である。日本外傷学会/日本災害医学会代表の大友 康裕氏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 救急災害医学)は、「地震などを想定して策定したBCP(事業継続計画)では不十分」とし、銃創におけるレントゲン活用の有用性、爆傷で生じる爆傷肺や眼の損傷への対処法を解説。国際的に使用されているタニケットによる止血法については、「病院での受入体制が遅れている」と危機感をあらわにした。また、災害やテロ被害時には「“重傷者が軽症者の後に運ばれてくる”ことを念頭に置くことが多くの救命につながる」ともコメントした。

 そのほか、日本集中治療学会、日本麻酔学会や東京都医師会担当者からは、院内ICUを救急ICUと統合する拡張運用など、患者数増加を見込んだ措置を検討しているとの報告が挙がった。

 なお、本コンソーシアムでは2016年の開設以降、現在35のマニュアルやガイドライン、提言などをホームページで発信し、各関連学会が作成したe-learningでの個人学習も推奨している。このサイトから関連学会のみならず官公庁にもアクセス可能なので、とっさの時の情報収集に有用かもしれない。

(ケアネット 土井 舞子)