昭和時代には農薬による中毒事故が多発していたが、近年では、手軽に入手できる一般用医薬品(OTC)の過量服用や違法薬物の蔓延などが問題視されている。2019年10月2~4日、第47回日本救急医学会総会・学術集会が開催され、シンポジウム8「不断前進、中毒診療」において、廣瀬 正幸氏(藤田医科大学病院薬剤部 災害・外傷センター)が「急性薬物中毒患者に対する救急常駐薬剤師の活動と役割」について講演。薬物中毒で搬送される患者像や病院薬剤師の病院外での活動について報告した。
搬送者の摂取薬物、総合感冒薬が最多?
廣瀬氏は救急病棟専任薬剤師の立場からOTC薬による薬物中毒の現状と問題点を検討。同氏の所属する施設において、2011年5月~2018年12月に緊急搬送された急性薬物中毒者475例のうちOTC薬を摂取した85例(18%)を抽出し、患者背景や摂取した薬物の種類、購入経路、服用理由について調査した。その結果、対象患者は若年者に多く増加傾向、OTC薬中毒患者のうち致死量摂取は28例、摂取したOTC薬の内訳は総合感冒薬32例、解熱鎮痛薬25例、眠気防止薬18例(延べ数)であった。さらに、致死量摂取症例の原因薬物はカフェインが主成分の眠気防止薬が最多で、インターネットだけでなく量販店などでも購入していた。致死量摂取患者に服用理由を尋ねたところ、全員が自殺目的の使用であり、眠気予防や興奮欲求のためではないことも明らかとなった。
OTC薬による薬物中毒の背景にある問題-各国の販売方法と比較
今回の調査では、OTC薬中毒患者全体が摂取した薬物の80%にカフェインが含まれていたことから、カフェインが薬物中毒の成分として最も問題であると判明した。しかし、カフェインを含む解熱鎮痛剤や総合感冒薬、眠気防止薬などのOTC薬は薬剤師による情報提供が義務となる第1類医薬品ではなく、第2類医薬品や第3類医薬品に分類される。また、カフェインの過量摂取は危険なため、解熱鎮痛薬や総合感冒薬では無水カフェインの1日最大分量が定められている。しかし、問題となる眠気防止薬は「最大分量の定めがなく安価で販売されている」と同氏は警告した。
日本では手軽に購入できてしまうOTC薬だが、世界を見渡してみると各国の現状や対策はさまざまで、日本より厳しく規制されている。たとえば、米国ではプソイドエフェドリン含有製剤は対面販売、デンマークではインターネット販売しているものの受け取りは薬局で対面販売、リトアニアではカフェイン含有飲料の未成年者への販売禁止などの措置を講じている。これを踏まえ同氏は「日本におけるOTC薬の販売制度の見直しが必要ではないか」と、問題提起した。
過量摂取や救急搬送の未然防止策がカギ
このようなOTC薬による中毒患者を減らすために、同氏ら救急常駐薬剤師は精神科救急領域にも積極的に参加し、患者への再発防止指導のみならず地域の薬剤師に対して中毒情報の発信も行っている。病院内の情報を近隣の調剤薬局などと共有するための勉強会を開催するなかで、「近郊の薬剤師会と連携することで、薬物中毒の背景にある新たな問題点も明らかとなった」とし、「地域の薬剤師会と連携しアンケートを行った。その結果、薬物依存や中毒を疑う患者に遭遇した薬剤師は半数いるものの、そのような患者に対して“薬剤師として対応をとる自信がある”、あるいは“薬局内で対策している”と回答したのは約10%にとどまった」と危機感を募らせた。
この現状を踏まえて同氏は「医薬品の乱用・依存には薬剤師の意識や規範が大きく関わっており、販売者である薬剤師の責任は大きい。薬剤師による『中毒患者への声かけ』は過量摂取の大きな抑制力になるのではないか。救急常駐薬剤師として地域薬局への情報提供の継続は重要な役割」と、締めくくった。
(ケアネット 土井 舞子)