HER2陰性の進行・再発乳がん(mBC)に対する1次治療として、S-1が標準治療(アンスラサイクリンを含むレジメンあるいはタキサン)と比較して非劣性であることが示された。第57回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)で、大阪市立大学の高島 勉氏が第III相SELECT BC試験およびSELECT BC-CONFIRM試験の統合解析結果を発表した。
はじめに実施されたSELECT BC試験は、化学療法歴のないHER2陰性mBC患者を対象とした、タキサンとS-1のランダム化比較試験。主要評価項目である全生存期間(OS)は、タキサン群の37.2ヵ月に対しS-1群35.0ヵ月と、S-1のタキサンに対する非劣性が証明された(ハザード比[HR]:1.05、95%信頼区間[CI]:0.86~1.27、non-inferiority test p=0.015)。またHRQoLの比較において、全般的健康(p=0.04)、身体機能(p<0.01)、認知機能(p=0.03)など、経済的困難、疼痛を除くすべての項目でS-1群が有意に優れていた。
SELECT BC-CONFIRM試験は、同様の患者を対象としたアンスラサイクリンとS-1のランダム化比較試験。本試験はSELECT BC試験との統合解析を前提として組まれている。そのうえで、OSについては、アンスラサイクリン群33.7ヵ月に対してS-1群30.1ヵ月(HR:1.09、95%CI:0.80~1.48、ハザード比の非劣性マージン1.333を超えない確率=90.27%)と報告されている。HRQoLについては、両群で有意な差はみられなかった。今回の発表では、新たに両試験の統合解析結果(主要評価項目:OS、副次評価項目:安全性、HRQoL、PFSなど)が報告された。
主な結果は以下のとおり。
・SELECT BC試験:618例、SELECT BC-CONFIRM試験:230例の計848例が組み入れられ、それぞれS-1群と標準治療群に無作為に割り付けられた。辞退者などを除き、最終的な解析はS-1群419例、タキサン群286例、アンスラサイクリン群109例について行われた。
・ベースライン時の患者特性は、年齢中央値がS-1群57.7歳/タキサン群57.6歳/アンスラサイクリン群59.9歳であった。各群3/4がホルモン受容体陽性、1/3が肝転移陽性の患者であった。周術期治療としては、ホルモン療法が約6割、タキサンが3割弱、経口FU剤が1割強で使われていた。無再発期間(DFI)は2~5年および5年以上の患者がそれぞれ約3割を占めていた。
・追跡期間中央値32.7ヵ月において、OS中央値はタキサンとアンスラサイクリンの標準治療群36.3ヵ月 に対しS-1群32.7ヵ月(HR:1.06、95%CI:0.90~1.25)となり、あらかじめ設定された非劣性マージン(1.333)を下回り、S-1の標準治療に対する非劣性が証明された(non-inferiority test p=0.0062)。
・無増悪生存期間(PFS)中央値は、両群ともに11.2ヵ月であった(HR:1.10、95%CI:0.95~1.27)。
・HRQoLについては、S-1とアンスラサイクリンで両群間に差異はなかった(p=0.257)が、S-1とタキサンでは有意差が確認された(p=0.0039)。
・有害事象による治療中止は、S-1群5.7%、標準治療群6.6%で発生した。
・血液毒性としては、アンスラサイクリン群で貧血や好中球減少のGrade3以上が若干多い傾向がみられた。S-1群ではトランスアミラーゼ上昇やビリルビン上昇が多い傾向がみられたものの、ほとんどがGrade1/2であった。
・非血液毒性としては、S-1群では脱毛が少ないことが特徴的であった。タキサン群では神経障害が多く、アンスラサイクリン群とS-1群では食欲不振、吐き気といった消化器毒性が多い傾向がみられた。
高島氏は、アンスラサイクリン群との比較においてHRQoLについて有意な差がみられなかったことについては、制吐剤の進歩などによりアンスラサイクリン投与中のQoLは比較的良好なのではないかと考察。しかし、同薬は心毒性による用量制限があり、奏効しても長期間使用ができない場合があることを指摘した。経口薬であることによる投与の簡便さと、脱毛や末梢神経障害、浮腫や心機能障害などの苦痛を伴う有害事象が少ないという点にS-1の利点があるとまとめている。
(ケアネット 遊佐 なつみ)