抗精神病薬による治療は、代謝異常と関連しているが、各抗精神病薬によりどの程度代謝の変化が起こるのかはよくわかっていない。また、代謝調節不全の予測因子や代謝の変化と精神病理学的変化との関連も不明である。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのToby Pillinger氏らは、抗精神病薬による代謝系副作用の比較に基づきランク付けを行い、代謝調節不全の生理学的および人口統計学的予測因子の特定を試み、抗精神病薬治療による精神症状の変化と代謝パラメータの変化との関連について調査を行った。The Lancet Psychiatry誌2020年1月号の報告。
MEDLINE、EMBASE、PsycINFOより、2019年6月30日までに報告された統合失調症の急性期治療に対する18種類の抗精神病薬とプラセボを比較した盲検ランダム化比較試験を検索した。体重、BMI、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド、グルコースの濃度に関して、治療誘発性の変化を調査するため、ランダム効果ネットワークメタ解析を実施した。代謝の変化と年齢、性別、民族性、ベースライン時の体重、ベースライン時の代謝パラメータレベルとの関連を調査するため、メタ回帰分析を実施した。症状の重症度変化と代謝パラメータの変化との相関を推定することで、代謝の変化と精神病理学的変化との関連を調査した。
主な結果は以下のとおり。
・6,532件の引用のうち、ランダム化比較試験100件(2万5,952例)が抽出された。
・治療期間の中央値は、6週間であった(四分位範囲:6~8)。
・プラセボと比較した各パラメータの平均差は以下の範囲であった。
●体重増加:ハロペリドール:-0.23kg(95%CI:-0.83~0.36)~クロザピン:3.01kg(95%CI:1.78~4.24)
●BMI:ハロペリドール:-0.25kg/m2(95%CI:-0.68~0.17)~オランザピン:1.07kg/m2(95%CI:0.90~1.25)
●総コレステロール:cariprazine:-0.09mmol/L(95%CI:-0.24~0.07)~クロザピン:0.56mmol/L(95%CI:0.26~0.86)
●LDLコレステロール:cariprazine:-0.13mmol/L(95%CI:-0.21~-0.05)~オランザピン:0.20mmol/L(95%CI:0.14~0.26)
●HDLコレステロール:ブレクスピプラゾール:0.05mmol/L(95%CI:0.00~0.10)~amisulpride:-0.10mmol/L(95%CI:-0.33~0.14)
●トリグリセライド:ブレクスピプラゾール:-0.01mmol/L(95%CI:-0.10~0.08)~クロザピン:0.98mmol/L(95%CI:0.48~1.49)
●グルコース:lurasidone:-0.29mmol/L(95%CI:-0.55~-0.03)~クロザピン:1.05mmol/L(95%CI:0.41~1.70)
・グルコース増加の予測因子は、ベースライン時の多い体重(p=0.0015)および男性(p=0.0082)であった。
・民族性においては、非白人は、白人と比較し、総コレステロールのより大きな増加と関連していた(p=0.040)。
・症状重症度の改善は、以下のパラメータ変化との関連が認められた。
●体重増加:(r=0.36、p=0.0021)
●BMI増加:(r=0.84、p<0.0001)
●総コレステロール増加:(r=0.31、p=0.047)
●HDLコレステロール減少:(r=-0.35、p=0.035)
著者らは「代謝性副作用に関して抗精神病薬間で顕著な差が認められた。プロファイルが良好であった薬剤は、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、cariprazine、lurasidone、ziprasidoneであり、不良であった薬剤は、オランザピンとクロザピンであった。抗精神病薬誘発性の代謝変化に関する予測因子は、ベースライン時の多い体重、男性、非白人であり、精神病理学的改善は代謝障害との関連が認められた。本知見を考慮し、治療ガイドラインを更新する必要があるが、抗精神病薬を選択する際には、患者、介護者、主治医の臨床状況を鑑み、個別に治療選択肢を検討すべきである」としている。
(鷹野 敦夫)