近年の研究において、小児期の注意欠如多動症(ADHD)から成人期の境界性パーソナリティ障害(BPD)への移行が示唆されている。一般的な遺伝的影響が知られているが、生涯を通じてある疾患から別の疾患へ移行する可能性に対する環境要因の影響に関するエビデンスは、ほとんどない。スペイン・Hospital Universitary Vall d'HebronのNatalia Calvo氏らは、ADHD児におけるBPD発症リスク因子として、小児期のトラウマの影響を検証するため、既存のエビデンスのレビューを行った。Borderline Personality Disorder and Emotion Dysregulation誌2020年1月6日号の報告。
文献検索には、PubMed、Science Direct、PsychInfoを用いた。疫学および臨床サンプルよりBPDとADHDとの関係および小児期のトラウマの影響に関する研究を選択した。
主な結果は以下のとおり。
・検索条件に一致した研究は、4件のみであった。
・すべての研究は、小児期のトラウマをレトロスペクティブに分析しており、ADHDの有無にかかわらず、BPD成人患者を最も頻繁に検討していた。
・分析されたエビデンスは、小児期のトラウマ数と臨床的重症度の高さとの関連を示唆していた。
・分析された研究のうち3件では、感情的および性的なトラウマを経験したADHD児において、成人期のBPD発症リスクの増加が認められた。
著者らは「ADHD児におけるトラウマイベント、とくに感情的なトラウマの経験は、成人期のBPD発症リスクの増加と関連する可能性が示唆された。しかし、このことをリスク因子と見なすには、縦断的研究のような、より多くの研究が必要とされる。これらの研究から得られたエビデンスは、両疾患に関連する機能障害を軽減するための早期介入プログラムを開発するうえで役立つかもしれない」としている。
(鷹野 敦夫)