病院などの医療・福祉施設は、災害時に診療機能の継続が急務となる。また、高齢者を含む災害弱者を預かる責務を負うため、電気や水道、ガスなどのライフライン確保が求められる。この時、災害時の病院を稼働させるために忘れてはならないものーそれは石油である。
2020年1月23日、「防災の専門家と考える自然災害時の施設のリスクと備えを学ぶセミナー」が開催され、野口 英一氏(戸田中央医科グループ災害対策室長)が「自然災害時の社会的重要インフラ機能障害と対応策-業務機能継続の観点から-」について講演した(主催:全国石油商業組合連合会)。
電気復旧、早くても7~14日は要する
気象庁が公開する、気象庁震度階級関連解説表(震度階とライフライン・インフラ等への影響
1))には、『震度5弱程度以上の揺れがあった地域では、停電が発生することがある』と、統計的データに基づいた内容が示されている。
これを踏まえ、野口氏は過去の事例として、1995年に発生した阪神淡路大震災時の診療機能に係る被害状況(診療可能状況 神戸市内等182病院)
2)を提示。「震災当日は手術や人工透析など、水道設備が必要な部門ほど対応に苦慮していた」と当時を振り返り、診療機能の低下要因として、上水道や電気、そしてガスの供給不能を挙げた。
当時は水道や都市ガスの完全復旧に約2ヵ月以上も要した。それに比べ、電気は震災後7日目に復旧するという目を見張る早さだったという。しかし、ほかの災害時にも同様の復旧が見込めるわけではなく、たとえば、2019年10月に発生した台風19号による被害では、電気の復旧に約2週間も要している。このことから、同氏は「阪神淡路大震災当時は電力会社の活躍が大きかった。しかし、ほかの震災では電力不足が一番の問題であった」と述べ、災害時に備えて「復旧までの期間は自家発電装置活用による施設ごとの対応が重要」と強調した。
医療機器を稼働させるのに必要な電力量は?
災害時に電力が必要な医療活動はさまざまあるが、とくにトリアージや救急患者の手術などが優先活動として挙げられる。同氏は「トリアージには1kVA、救急患者手術には30kVA、救急患者入院には12kVAの電力を要する」とし、この状況下で利用される医療機器について「シリンジポンプは家電製品と同レベルの消費電力なので問題ないが、X線の平均消費電力は医療機器で最も高く、IH調理器の約12倍に相当する。」とコメント。一方で、被災者や入院患者の状態に最も影響するのは空調設備であるものの、「これが一番制限されてしまう」と述べた。
発電に必要なのは石油
災害時の電力供給に重要な役割を担うのが自家発電装置であるが、これを稼働させるには石油の備蓄も重要である。仮に自家発電装置で72時間も電力を持続させるには、施設内に大型の石油保管用地下タンクが必要となる。都市部で地下タンクの設置は厳しいため、最寄りの石油販売業者から取り寄せなければならないが、これに対し同氏は「東日本大震災時は石油出荷拠点のほとんどが被災し、出荷不可能な日が続いた」と述べ、「災害時の石油需要は医療施設だけではない。緊急車両や災害対応車両用、避難所の給油・暖房用としてもニーズがある。医療施設には給油の優先ルールがないため、本来であれば自施設での72時間分の燃料備蓄が望まれる。しかし、消防法の規制などで備蓄が難しい場合には、外部から確実に調達できる方法が必要であり、そのためには日頃から地域の石油販売業者との関係性が大切」と、罹災に備えた地域交流の重要性を訴えた。
(ケアネット 土井 舞子)