とくに日本において、病気としての社会的認知度が極めて低く、「さぼっている」「精神的なもの」というレッテルを貼られがちな疾患がある。女性の12.9%、男性の3.6%が抱える神経性の疾患でありながら、その認識の低さにより受診率が低く、患者の半数以上が市販の鎮痛薬にのみ頼っている。1月29日、「『健康経営』の新たな視座 働き世代の女性が苦しむ片頭痛への理解」と題したメディアセミナー(主催:日本イーライリリー)が開催された。本稿では、坂井 文彦氏(埼玉国際頭痛センター)、五十嵐 久佳氏(富士通クリニック)のほか、女性患者による講演の内容をレポートする。
複数科を受診も診断はつかず、休職を検討
登壇した50代の女性患者は、高校時代から時折頭痛があり、出産後に悪化。仕事中に資料がチラチラと光って見え読めなくなるという閃輝暗点が出現し、吐き気を伴うことも。内科を受診するも、鎮痛薬を処方されるのみで原因はわからなかった。
その後もめまい外来やメニエール病疑いでの耳鼻科受診など、複数の病院・診療科を受診するも明確な診断はつかないまま時間が経過。50代を過ぎるとさらに頭痛が悪化し、座っていても意識が飛ぶほどの痛みがでることも。休職に至り、仕事を辞めることを検討せざるを得なくなった。
はっきりとした診断がつかないこともあり、家族でさえ「また?」という反応になることが何よりもつらかったと話す。安静にすると収まる場合もあり、職場ではひたすら我慢していたという。現在は片頭痛との診断が出て、定期的な受診のほか、頭痛教室や頭痛ヨガに通っている。痛みが完全に取り除かれたわけではないが、何よりもこの痛みが病気であると自身も確認でき、周囲にも説明できるようになったこと、そして頭痛ダイアリーをつけて予兆をつかむことができ、収まらなかったら薬という安心感があることで、以前とはつらさの度合いが異なると話した。
3大慢性頭痛の診断ポイントは?
国際頭痛分類(第3版)で頭痛は367種類に分類されており、その鑑別は容易ではない。くも膜下出血や髄膜炎などを疑うことと比較して、慢性頭痛は医療者からの認識や疾患として捉える意識も低いと坂井氏は指摘。慢性頭痛は頭痛そのものが疾患であるという認識を、改めて持つがことが重要と話した。
同氏は、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛という3大慢性頭痛の診断のポイントについて、下記の通り整理した。
・片頭痛
痛み:頭の片側がズキズキ痛む
きっかけ・予兆:光や音で痛みがでる
頻度:月に数回
併発する症状:吐き気や嘔吐
・緊張型頭痛
痛み:頭が締めつけられるよう
きっかけ・予兆:ふわふわとしためまい
頻度:ほとんど毎日
併発する症状:肩や首がこる
・群発頭痛
痛み:片側の目の奥に強い痛みが走る
きっかけ・予兆:アルコールで誘発
頻度:半年から年1回程度で1ヵ月ほどほぼ毎日起こる
併発する症状:痛む側の目の充血、涙
慢性頭痛では、患者の話を頼りに鑑別していくしかない点に難しさがある。同氏は、動くとつらい(血管が広がると悪化)のが片頭痛、動くとまぎれる(筋肉が収縮して血行がよくなり改善)のは緊張型頭痛であることが多く、この2つに関してはまずこの点で大別できるだろうと話した。
病態は複雑、しかし予兆や回復期の特徴でみえてきていることも
片頭痛の症状には様々なバリエーションがあり複雑だが、特徴を整理することで患者の負担感を軽減できる可能性もある。例えば、誘発因子としてストレスが考えられる片頭痛では、予兆として生あくび、前兆として閃輝暗点、頭痛は拍動性で、回復期には睡眠で寛解がみられることが多い。また、ホルモンバランスを誘発因子とする片頭痛では、予兆として浮腫、頭痛に悪心・嘔吐を伴うことがあり、回復期には利尿がみられるという。
WHOによる2015年の報告
1)では、片頭痛による生涯支障年数は神経疾患の中で脳卒中に次ぐ第2位。髄膜炎や認知症と比較しても片頭痛による健康寿命は短いと試算されている。アブセンティーズム(欠勤・休職や遅刻・早退)だけでなく、プレゼンティーズム(出勤しているものの生産性が低い状態)への影響は大きく、坂井氏は、医療者と企業が連携して患者負担を軽減していくことが必要とした。
仕事に支障がでるような痛みでも、92%が我慢して勤務
五十嵐氏は、片頭痛に対する認識について、患者300人と患者以外の300人に対するインターネット調査の結果
2)を解説。「仕事に支障がでるほどの片頭痛が出たときどうするか」という患者対象の質問では、92%が我慢して勤務を継続すると回答していた。その理由として最も多かったのは「周りの人に迷惑をかけたくないから(60%)」というもの。一方で、患者以外を対象に、体調による働き方の調整への許容度を聞いた質問では、片頭痛により仕事を休むことを79%の人が許容していた。
片頭痛による痛みを、上司が理解していると思うかという患者対象の質問では、理解されていると答えた患者は50%に留まっている。また、片頭痛の痛みの度合いについて、患者は「出産に次ぐ痛み」と答える割合が多かったが、患者以外にとっては「出産→腎結石→骨折」に次ぐ程度との回答が多かった。
これらの結果から同氏は、体調による働き方の調整には一定の理解があるものの、具体的にどうしたらいいのかわからないという課題があると指摘。組織ぐるみ、システムとしての対応策を検討していくことの重要性を強調した。片頭痛は主観的症状が主となるため、患者側は理解されないだろうというつらさを抱えてしまい、周りの人間はその度合いを理解することが難しい。受診を控え、市販鎮痛薬だけに頼ってしまうといった状況を避けるためにも、広くこの疾患に対する認知度を高めていくことが重要とした。
(ケアネット 遊佐 なつみ)