8月7日、国立国際医療研究センターはメディア向けに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をテーマとし、「COVID-19レジストリ研究の中間報告」のセミナーを開催した。
セミナーでは、2020年1月から現在まで収集された約4,800例のCOVID-19患者のデータから患者の入院時症状の傾向、予後、重症化傾向などの中間解析結果が説明された。
COVID-19患者5,977例を精査
はじめに同センター理事長の國土 典宏氏が、東京・新宿区におけるセンターの意義、患者数の推移・傾向、患者対応などを説明した。
今回の研究では、センターで診療した5,977例(うち陽性1,335例、22.3%)の症例で検討がなされたこと、患者数も一度減少したものの、最近では増加傾向にあり、東京都の感染者数の拡大とパラレルであることが説明された。
センターでは、COVID-19対応総合病院機能として、検疫、重症者対応、診断法・治療法の開発、行政との連携だけでなく、疫学としてゲノム解析や患者レジストリにも力を入れていくと展望を述べた。
全国748施設から4,797例を解析
続いて同センターのAMR臨床リファレンスセンターの松永 展明氏と同感染症センターの大津 洋氏が「COVID-19 レジストリ研究に関する中間報告について」をテーマに、レジストリ体制、システムの概要ならびに中間解析の結果について説明を行った。
レジストリ研究の概要について、目的は「COVID-19患者の臨床像および疫学動向を明らかにする」と定め、対象は「COVID-19と診断され医療機関において入院管理されている症例」と規定し、2020年1月(レジストリオープンは3月)からデータ収集されている(詳細は下記のホームページ参照)。
レジストリシステムは、世界保健機関とISARICが作成した症例報告書テンプレートを使用し、日本独自調査の項目も追加。センター内にサーバを設置し、データの集積が行われており、将来的には他国のデータとの統合分析も予定できる設計という。レジストリの登録施設は、全国で748施設、登録症例数は4,797例(8月3日現在)に上る。
男性・高齢者・喫煙者や併存疾患のある例は重症化
続いて感染症センターの早川 佳代子氏が解析結果を説明した。中間解析の対象は、約230施設、約2,700例であり、レジストリ開設から7月7日までに登録された「入院治療を行った患者かつ入院時SARS-CoV-2陽性の患者」について行われた。
重症度の内訳として、入院後最悪の状態では「酸素不要」(61.8%)、「酸素要」(29.7%)、「挿管など」(8.5%)だった。入院中に酸素不要であった軽症者は約60%、挿管や体外式膜型人工肺(ECMO)を要した例は8.5%だったほか、入院時に重症であった例では、5人に1人以上が挿管やECMOを要したが、非重症であった例では2%未満だった。
患者背景では、2週間以内に陽性例や疑い例と濃厚接触があった例が58.3%。男性で喫煙者では重症化しやすかったほか、酸素や挿管などを要した患者は年齢が高めであった。また、60代以降では重症化しやすい(=酸素投与・挿管などが必要)傾向がみられた。
併存疾患では、軽症糖尿病(14.2%)、高脂血症(8.2%)、脳血管障害(5.5%)などがみられ、海外(一例としてイギリス:軽症糖尿病[22%]、重症糖尿病[8.2%]、 肥満[9%])の入院患者報告に比べると、併存疾患の割合は低めだった。
入院時の症状では、(37.5度以上)発熱、咳、倦怠感、呼吸困難感が多く、軽症例では頭痛、味覚障害、嗅覚障害を訴える例が多かった(発症から入院までの中央値:7日間)。とくに味覚障害と嗅覚障害の頻度は、海外からの報告でもばらつきが大きいものの、今後症状として増える可能性があると指摘した。
薬剤の使用歴について(併用例もそれぞれカウント)、酸素不要、酸素要、挿管などのいずれでも「ファビピラビル」が一番多く、次にシクレソニドだった。挿管などが必要な患者ではステロイドの使用も多かった。なお、有効性などの中間解析は未解析としている。
退院時の転帰について、全体で自宅退院(66.9%)が最も多く、ついで転院(16.6%)、医療機関以外への施設への入所(7.4%)で、入院死亡は7.5%だった。とくに挿管などの処置の例での死亡は33.8%と高い数値だった。なお、わが国では、海外の入院患者報告に比べると、死亡の割合は低めだという(イギリス:26%、米国NY:21~24%、中国:28%)。
以上から中間解析では、男性・高齢者・喫煙者や併存疾患のある例(心血管系・糖尿病・COPDなど慢性肺疾患)では重症化しやすく、入院中に酸素不要であった軽症者では約8割が自宅退院となり、予後良好であること。そして、欧米と比較し、低めの併存疾患の割合(糖尿病:16.7%、肥満:5.5%)や死亡率(7.5%)であったことが示唆されると説明した。
最後に臨床研究センターの大曲 貴夫氏が、「疫学研究としてさらなる知見の創出」、「医薬品医療機器開発への活用」、「臨床情報と検体情報の融合によるさらなる研究発展」を柱に研究を行っていくと展望を語り、セミナーを終えた。
■参考サイト
COVID-19に関するレジストリ研究 COVIREGI-JP
(ケアネット 稲川 進)