新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック時に懸念されたことの1つに、患者の受診自粛がある。しかし、医療機関を訪れることが感染リスクにどう影響するかについては、十分に明らかになっていない。本研究は、米国・Brigham and Women's HospitalのSharon C. Reale氏らの研究チームが、コロナパンデミックの中にあっても定期的な診察が必要だった妊婦を対象に、受診回数がSARS-CoV-2感染のリスクと関連しているかどうかを検証した。JAMA誌オンライン版2020年8月14日号リサーチレターでの報告。
本研究の対象は、2020年4月19日~6月27日(産科患者全員が入院時にSARS-CoV-2のRT-PCR検査を実施した期間)にマサチューセッツ州ボストンの4つの医療機関で出産した2,968例。リスクセットサンプリングを用いて、妊娠中または分娩・出産のための入院時にSARS-CoV-2陽性と判明した症例を最大5例の対照とマッチさせた、ネステッドケースコントロール研究を実施した。症例がSARS-CoV-2陽性と判明した日(±6日)における妊娠期間、人種/民族、保険の種類および患者の居住地域におけるSARS-CoV-2感染率に基づいて対照とマッチさせた。電子カルテデータから、3月10日(マサチューセッツ州で必要不可欠ではない業種が停止される2週間前)から症例における陽性判定日までの受診回数を調べた。
主な結果は以下のとおり。
・対象集団2,968例中、SARS-CoV-2が検出された患者は111例(3.7%、95%CI:3.1%~4.5%)であった。このうち、45例は出産前にSARS-CoV-2陽性であり、66例は分娩・出産のための入院時に陽性が判明した
・州外居住者(2.2%)と、マッチングに必要なデータが欠落している患者(0.8%)を除く、SARS-CoV-2陽性93例(症例群)と372例(対照群)を比較したところ、平均受診回数は、症例群3.1回(SD:2.2、範囲:0~10)に対し、対照群は3.3回(SD:2.3、範囲:0~16)だった。
・妊婦健診の受診回数とSARS-CoV-2感染の関連性について、受診を1回追加することによるオッズ比は0.93(95%CI:0.80~1.08)だった。
本結果について、著者らは「ボストンエリアにおける産科患者のサンプルでは、妊婦健診の受診回数とSARS-CoV-2感染率の間に有意な関連は見られなかった」と結論。マサチューセッツ州では、2020年春のコロナ患者急増時に感染率が全米で3番目に高く、とくにボストンエリアで多くの感染者が出た。著者らは、「病院に行くことが感染の重要な危険因子である可能性は低く、コロナ流行下においても妊婦健診を受けることは必要であり、かつ安全に実施できることを本研究は示唆している」と結んでいる。
(ケアネット 鄭 優子)