統合失調症患者の認知機能に対するアリピプラゾールの有用性は、これまでの報告で明らかとなっているが、最近発症した統合失調症患者を対象とした報告はあまりなかった。認知機能障害には、統合失調症の病態生理に関与しているカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)、セロトニントランスポーター(SERT)の遺伝子多型が関連しているといわれている。クロアチア・University Hospital Centre Sestre MilosrdniceのVjekoslav Peitl氏らは、アリピプラゾール持続性注射剤(LAI)のCOMT、MTHFR、SERT遺伝子多型への短期的な影響および最近発症した統合失調症入院患者の臨床症状や認知機能に対するこれらの関連について検討を行った。Psychopharmacology誌オンライン版2021年2月13日号の報告。
対象は、最近発症した統合失調症入院患者98例(DSM-V基準)。アリピプラゾールLAI開始3ヵ月後の症状重症度および認知機能は、それぞれ陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、5-KOGテストを用いて測定した。SERT、MTHFR、COMTの遺伝子多型は、さまざまなPCR法によって測定した。
主な結果は以下のとおり。
・3ヵ月間のアリピプラゾールLAI治療によって、有意な改善が認められた項目は以下のとおりであった。
●PANSS合計スコア(p<0.001)
●PANSSサブスケールスコア(p<0.03)
●遅延再生(p<0.03)
●注意力(p<0.01)
●固執性の少ない実行機能(p<0.03)
●複合認知スコア(p<0.02)
・調査した遺伝子多型のうち、COMT遺伝子多型(Met/Met対立遺伝子保有者)と注意力との間に正の関連が認められた(p<0.01)。
・COMT-MTHFR相互作用と注意力(p<0.02)および実行機能に属する固執性(p<0.01)との間に正の関連が認められた。
・他の遺伝子多型では、認知機能との有意な関連は認められなかった。
・各遺伝子多型とそれらの相互作用では、PANSSとの関連は認められなかった。
著者らは「最近発症した統合失調症に対するアリピプラゾールLAI治療は、認知機能改善が期待できる。注意力や実行機能との関連が認められたCOMT遺伝子多型は、統合失調症の認知機能に対するバイオマーカーである可能性が示唆された」としている。
(鷹野 敦夫)