脳腫瘍は、手足が動かない、言葉が話せないといった神経症状が出現するまでCTやMRI検査を受ける機会がなく、発見時にはすでにかなりの大きさに進行しているケースが多い。しなしながら、進行した脳腫瘍は手術で完全に取り除くことは難しく、いかに腫瘍が小さい段階で発見し、治療を開始するかが肝要である。名古屋大学の夏目 敦至氏ら研究チームは、尿中に含まれるマイクロRNAを測定することにより、99%の正確度で脳腫瘍が診断できる可能性を見出だした。本研究結果は、2021年4月1日付でACS Applied Materials & Interfaces誌オンライン版に掲載された。
研究チームは、脳腫瘍診断のバイオマーカーとして、生体の機能を調整する核酸であるマイクロRNAに注目。マイクロRNAは細胞外小胞体の中に含まれており、多くの細胞外小胞体は血液だけでなく尿中でも壊れずに安定して存在しているという。しかし、従来の方法では尿から多種類のマイクロRNA採取ができなかったため、尿中の細胞外小胞体が効率良く集められるナノサイズの酸化亜鉛ナノワイヤ装置を開発した。
脳腫瘍由来のマイクロRNAが尿中に認められるかどうかを調べるため、脳腫瘍患者の腫瘍組織を培養し、ナノワイヤ装置を用いて脳腫瘍組織が分泌しているマイクロRNAを抽出。解析を行ったところ、健康な人に比べ脳腫瘍患者の尿で発現変動を示していたマイクロRNAの73.4%は、脳腫瘍そのものから分泌されたマイクロRNAであることがわかった。この脳腫瘍が分泌する特徴的なマイクロRNAは、健康な人の尿中にはほとんど含まれていなかった。
本研究では、脳腫瘍患者68例と健康な66例の尿からマイクロRNAを抽出し、その発現パターンについて比較した。その結果、脳腫瘍患者のマイクロRNAの組み合わせには特徴的な発現パターンがあることが判明。さらに別の脳腫瘍患者34例と健康な34例について、先のパターンに基づいて分類したところ、99%の正確度(感度:100%、特異度:97%)で脳腫瘍を診断できることがわかった。さらに、非常に稀な脳腫瘍に罹患している患者15例についても、この方法で判定を行ったところ、15例すべてで「脳腫瘍あり」と正しく判定されたという。
著者らは、「本研究で得られた知見は、尿中マイクロRNAが脳腫瘍のバイオマーカーとして有用であり、大規模スクリーニングを行う上での適切な戦略を提供しうることを示唆している」と述べている。
(ケアネット 鄭 優子)