亜鉛(Zn)は生体内に欠かせない必須微量元素で、血清濃度が低下することで成長や認知機能、代謝などさまざまな活動に障害をもたらす。実際、慢性腎臓病(CKD)患者では血清Zn濃度が低くなる傾向があることから、今回、川崎医科大学の徳山 敦之氏らが亜鉛欠乏症とCKD進行の関係性について調査を行った。その結果、亜鉛欠乏はCKD進行の危険因子であることが明らかになった。さらに、Zn濃度が低い患者において、観察期間中に亜鉛製剤を服用した患者のほうが主要評価項目のリスクが低かったとも結論付けた。PLoS One誌2021年5月11日号に掲載。
研究者らは2014年1月1日~2017年12月31日までの期間、当院の腎臓内科を受診した4,066例からZn濃度測定が行われていた577例を抽出。そのうち基準を満たす312例を亜鉛欠乏症診療ガイドラインに基づき、低Zn群(<60μg/dL、n=160)と高Zn群(≥60μg/dL、n=152)の2群に割り付けた。観察期間は1年、主要評価項目を末期腎疾患(ESKD)または死亡と定義した。
主な結果は以下のとおり。
・全体の平均Zn濃度は59.6μg/dL、eGFR中央値は20.3mL/min/1.73m2だった。
・ベースライン時点で亜鉛製剤を服用していたのは全体で8例だった。
・ベースライン時点のバイアス(年齢、性別、BMI、糖尿病や心血管疾患の有無、eGFR、CPR、血清アルブミン、ARB・ACE阻害薬の使用など)を傾向スコアマッチングで調整し、Cox比例ハザードモデルで解析した。
・高Zn群と比較して、低Zn群ではネフローゼ症候群患者は多かったが、糖尿病、慢性肝疾患、腸疾患の患者数に差は見られなかった。
・主要評価項目のESKDと死亡発生率は全体で100例(32.1%)発生し、低Zn群のほうが高Zn群より高かった(43.1%.vs 20.4%、p<0.001)。
・血清アルブミン濃度が低い患者では、主要評価項目のリスクは、高Zn群よりも低Zn群で3.31倍高かった。一方、血清アルブミン濃度が高い患者では、低Zn群と高Zn群の間で主要評価項目に差はみられなかった(p=0.52)。
・競合するリスク分析によると、低Zn濃度がESKDに関連するものの、死亡には関連していないことを示した。さらに、傾向スコアマッチングでは、低Zn群は主要な結果でリスクが高いことが示された[調整済みハザード比:1.81(95%信頼区間:1.02、3.24)]。
・血清のZn濃度とアルブミン濃度の間には交互作用がみられた(交互作用のp = 0.026)。
(ケアネット 土井 舞子)