2021年11月に新型コロナウイルス亜種のオミクロン株が出現後、BA.1、BA.2、BA.2.12.1、BA.2.75(別名:ケンタウロス)、BA.4、BA.5などが世界中で流行している。BA.2.75は2022年6月にインドと日本で確認された新しい変異株で、そのスパイクタンパク質にはBA.2にはない9つの変異がある。今回、シンガポール・Duke-NUS Medical SchoolのChee-Wah Tan氏らが、ヒト血清でBA.5とBA.2.75の免疫回避の程度を調べたところ、BA.2.75とBA.5はワクチン接種やBA.1/BA.2への感染で誘導された免疫を回避すること、BA.2.75の免疫回避能はBA.5より低いことが示唆された。Lancet Microbe誌オンライン版2022年8月10日号に掲載。
本研究では、以下の血清パネルを用いて、武漢株、BA.1、BA.2、BA.2.75、BA.5の免疫回避の程度をシュードウイルスに対する50%中和抗体価(pVNT50s)の幾何平均で比較した。
- ファイザー製ワクチン(BNT162b2)2回接種(n=20)
- ファイザー製ワクチン3回接種(n=19)
- ファイザー製ワクチン2回接種後モデルナ製ワクチン(mRNA-1273)1回接種(n=20)
- ファイザー製ワクチン2回接種後オミクロン株に感染(n=19)
- ファイザー製ワクチン3回接種後オミクロン株に感染(n=9)
- ワクチン未接種でBA.1に感染(n=11)
- ワクチン未接種でBA.2に感染(n=8)
主な結果は以下のとおり。
・ファイザー製ワクチン2回接種者では、武漢株に対するpVNT50sの幾何平均に比べて、BA.2.75、BA.5を含むオミクロン株全般に対しては低く、26~35分の1だった。
・ワクチン3回接種者(3回目にモデルナ製ワクチンを接種した人を含む)、ワクチン2回または3回接種後にオミクロン株に感染した人では、各オミクロン株に対する中和抗体価はワクチン2回接種者より改善したものの、武漢株に対する抗体価より低く、BA.5に対する抗体価が最も低かった。BA.2に対するpVNT50sの幾何平均と比べると、BA.2.75に対しては1.1~1.4分の1、BA.5に対しては2.2~3.8分の1と低かった。
・ワクチン未接種でBA.1もしくはBA.2に感染した人は、武漢株、BA.2.75、BA.5に対する中和抗体価が低かった。
・BA.1感染者において、BA.1に対するpVNT50の幾何平均と比べると、BA.2.75に対しては10分の1、BA.5に対しては28分の1と低かった。
・BA.2感染者において、BA.2に対するpVNT50の幾何平均と比べると、BA.2.75に対しては5分の1、BA.5に対しては7分の1と低かった。
Tan氏らは「重要なのは、BA.2.75がBA.5より後に出現し多くの変異があるにもかかわらず、BA.5より免疫回避能が低いことだ」としている。
(ケアネット 金沢 浩子)