2021年、米国FDAはアルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)を有する患者に対する治療薬としてaducanumabの迅速承認を行ったが、そのコストは高く、患者1人当たり年間約2万8,000ドルを要する。一方、リチウムは年間約40ドルと非常に安価であり、MCIおよびアルツハイマー病にみられる認知機能低下に効果があると報告されている。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬とは対照的に、aducanumabやリチウムにはdisease-modifying drugとしての可能性が示唆されている。東京医科大学の寺尾 樹氏らは、MCIおよびアルツハイマー病の認知機能低下に対するaducanumabとリチウムの効果を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Ageing Research Reviews誌オンライン版2022年8月9日号の報告。
MCI治療薬aducanumabとリチウムの認知機能低下に対する有用性評価
2022年1月までに公表されたMCIまたはアルツハイマー病患者に対する治療薬として承認されたaducanumabとリチウムの認知機能低下に対する有用性を評価したランダム化比較試験を、PubMed、Cochrane Library、CINHAL、ClinicalTrials.govより検索した。直接的および間接的な効果を推定するため、頻度論的固定効果ネットワークメタ解析を用いた。主要アウトカムは、ミニメンタルステート検査(MMSE)で測定した認知機能スコアの変化とした。
MCI治療薬として承認されたaducanumabとリチウムの認知機能低下に対する有用性を評価した主な結果は以下のとおり。
・ネットワークメタ解析では、リチウムはaducanumabよりも、主要アウトカムに対する有効性が有意に高いことが示唆された。
・本研究では、さまざまな制限があったものの、MCIおよびアルツハイマー病の認知機能低下に対するリチウム治療は、MCIまたはアルツハイマー病患者に対する治療薬として承認されたaducanumabよりも費用対効果に優れる治療法である可能性が示唆された。
(鷹野 敦夫)