治療用量のリチウムが学習や記憶を改善し、認知症の発症リスクを低下させる可能性があることが、動物やヒトを対象とした研究結果より示唆されている。さらなる予備的研究では、ミクロレベルを含む治療用量以下のリチウムでも、ヒトの認知機能に影響を及ぼす可能性があることが示唆されている。デンマーク・コペンハーゲン大学のLars Vedel Kessing氏らは、飲料水中のマイクロレベルの長期リチウム曝露が、一般集団の認知症発症率に変動を及ぼすかを調査した。JAMA psychiatry誌オンライン版2017年8月23日号の報告。
本研究は、デンマーク全国人口ベースのコホート内症例対照研究の縦断的調査である。1970年1月~2013年12月までに病院で認知症と診断された50~90歳のすべての患者における自治体に関する個人の地理的データ、飲料水の測定データと時間特有のデータを収集した。また、年齢性別がマッチした対照群を抽出した。1986年以降の飲料水中の平均リチウム曝露は、すべてのサンプルにおいて推定した。データ分析は、1995年1月~2013年12月に実施した。主要アウトカムは、入院または外来患者の認知症診断とした。アルツハイマー型認知症、血管性認知症の診断は、副次的アウトカムとして測定した。一次解析では、認知症群と対照群におけるリチウム曝露分布の比較を行った。
主な結果は以下のとおり。
・認知症群7万3,731例(年齢中央値:80.3歳、四分位範囲:74.9~84.6歳、女性:4万4,760例[60.7%]、男性:2万8,971例[39.3%])、対照群73万3,653例が本研究に含まれた。
・リチウム曝露は、認知症群(中央値:11.5μg/L、四分位範囲:6.5~14.9μg/L)と対照群(中央値:12.2μg/L、四分位範囲:7.3~16.0μg/L)で統計学的に有意に異なっていた(p<0.001)。
・非線形の関連が確認された。
・リチウム曝露が2.0~5.0μg/Lと比較した認知症発症率比(IRR)は、15.0μg/L超で0.83(95%CI:0.81~0.85、p<0.001)、10.1~15.0μg/Lで0.98(95%CI:0.96~1.01、p=0.17)と低く、5.1~10.0μg/Lで1.22(95%CI:1.19~1.25、p<0.001)と高かった。
・同様のパターンが、アルツハイマー型認知症および血管性認知症のアウトカムとして認められた。
著者らは「自治体に関連する他の要因を排除することはできなかったものの、飲料水中の長期リチウム曝露は、非線形で認知症発症率を低下させる可能性がある」としている。
■関連記事
認知症予防の新たな標的、グルコースピーク
認知症になりやすい職業は
双極性障害、リチウムは最良の選択か
(鷹野 敦夫)