第98回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが、9月7日に開催された。その中で大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター/COVIREGI解析チーム)らのチームが、「COVID-19レジストリに基づく死亡症例の分析」を報告した。
レジストリ研究は、わが国におけるCOVID-19患者の臨床像および疫学的動向を明らかにすることを目的に、2020年1月から行われている。COVID-19と診断され、医療機関において入院管理されている症例を対象に(8月22日時点で登録症例数は7万920症例)、COVID-19の臨床像・経過・予後、重症化危険因子の探索、薬剤投与症例の経過と安全性について解析、検討が行われている。
軽症例での死亡率が徐々に上昇
【各波の死亡症例】
各波の死亡症例を比較すると、第6波と第7波は中等症および軽症からの死亡が増加していた。登録数で1番死亡例が多かった第3波と比較すると次のようになる〔( )の死亡率は編集部で算出した〕。
・第3波 総死亡:1,218、重症死亡数:235(19.3%)、中等症死亡数:957(78.6%)、軽症:26(2.13%)
・第6波 総死亡:300、重症死亡数:40(13.3%)、中等症死亡数:250(83.3%)、軽症:10(3.3%)
・第7波 総死亡:19、重症死亡数:1(5.2%)、中等症死亡数:17(89.0%)、軽症:1(5.2%)
【中等症での死亡症例】
中等症のうち、第4波以降ネーザルハイフローの利用が進んだが、第6波以降酸素のみ使用で死亡する症例が増えている。第5波で約50%、第6波で約65%、第7波で約80%と上昇。
【中等症のリスク因子】
第1波~第7波まで共通して、基礎疾患ありの患者の方が死亡していた。
第1波 224人中209人が基礎疾患あり(93.3%)
第2波 208人中200人が基礎疾患あり(96.2%)
第3波 924人中868人が基礎疾患あり(93.9%)
第4波 254人中235人が基礎疾患あり(92.5%)
第5波 118人中103人が基礎疾患あり(87.3%)
第6波 233人中223人が基礎疾患あり(95.7%)
第7波 17人中16人が基礎疾患あり(94.1%)
【第5波と第6・7波の比較】
・入院中のCOVID-19治療目的での薬物投与の登録割合
(第5波)
ワクチン接種あり(ステロイド、抗凝固薬、レムデシビル順で多い)
ワクチン接種なし(サリルマブ、モルヌピラビル、ナファモスタット、カモスタットの順で多い)
(第6・7波)
ワクチン接種あり(ステロイド、レムデシビル、抗凝固薬の順で多い)
ワクチン接種なし(ファビピラビル、カモスタット、サリルマブが同順で多い)
・入院中の呼吸補助の登録割合
(第5波)
ワクチン接種あり(酸素投与、ネーザルハイフロー、侵襲的機械換気の順で多い)
ワクチン接種なし(体外式膜型人工肺、非侵襲的機械換気、侵襲的機械換気の順で多い)
(第6・7波)
ワクチン接種あり(酸素投与、ネーザルハイフロー、侵襲的機械換気の順で多い)
ワクチン接種なし(体外式膜型人工肺、非侵襲的機械換気、侵襲的機械換気の順で多い)
【第6波と第7波の比較】
・入院中のCOVID-19治療目的での薬物投与の登録割合
(第6波)
ワクチン接種あり(レムデシビル、ステロイド、抗凝固薬の順で多い)
ワクチン接種なし(ファビピラビル、カモスタット、サリルマブが同順で多い)
(第7波)
ワクチン接種あり(レムデシビル、ステロイド、抗凝固薬の順で多い)
ワクチン接種なし(ファビピラビル、トシリズマブ、ナファモスタット、カモスタット、サリルマブ、カシリビマブ/イムデビマブが同順で多い)
・入院中の呼吸補助の登録割合
(第6波)
ワクチン接種あり(酸素投与、ネーザルハイフロー、侵襲的機械換気の順で多い)
ワクチン接種なし(体外式膜型人工肺、非侵襲的機械換気、侵襲的機械換気の順で多い)
(第7波)
ワクチン接種あり(酸素投与、ネーザルハイフロー、侵襲的機械換気の順で多い)
ワクチン接種なし(体外式膜型人工肺、非侵襲的機械換気、侵襲的機械換気の順で多い)
【まとめ】
・第5波と第6-7波の死亡例比較では、第6-7波の方が人工呼吸・ネーザルハイフローの使用率やステロイド処方が下っていた。また、ともに90%の事例では酸素を必要としていた。
・第6波と第7波の死亡例比較では、第7波の方が、さらに人工呼吸・ネーザルハイフローの使用率やステロイドの処方率が下がっていた。
・ワクチン3回、4回接種者の割合が増加していることから、重篤なCOVID-19肺炎による呼吸不全の方が占める比率が下がっていると推測される。
※なお、本報告のレジストリ登録患者は入院患者かつわが国全体の患者の一部であり、すべてのCOVID-19患者が登録されているわけではないこと、また報告では統計学的な検討は実施していないことに注意が必要。
(ケアネット 稲川 進)