第8波の主体となっている新型コロナウイルス・オミクロン株。現在では、欧米諸国でBA.5系統から派生したBQ.1.1系統が、インドやシンガポールなどのアジア諸国ではBA.2系統から派生したXBB系統の感染例が急激に増加している。これら現在流行中の系統に対する新型コロナワクチンの有効性は、どの程度あるのだろうか。
東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡 義裕氏らの研究グループは国立国際医療研究センターと共同で、オミクロン株BQ.1.1系統とXBB系統に対するmRNAワクチン(パンデミック初期株をもとに作られたワクチン)の有効性を検証するため、患者から分離したBQ.1.1系統とXBB系統に対するmRNAワクチン被接種者血漿*の中和活性を調べた。その結果、BQ.1.1系統とXBB系統に対する中和活性は、従来株、BA.2系統、あるいはBA.5系統に対する活性よりも顕著に低かったことが判明した。Lancet Infectious Diseases誌2023年1月号に公表された。
*3回目接種から半年経過または、4回目接種から1~2ヵ月経過したもの。
ワクチン4回接種でも中和活性は低い
本研究の目的として、2022年12月現在、わが国を含む多くの国々では、BA.5系統に属する株が主流となっている。しかし、米国をはじめとする欧米諸国では、BA.5系統から派生したBQ.1.1系統が主流となりつつあり、インドやシンガポールなどのアジア諸国では、BA.2系統から派生したXBB系統の感染例が急激に増加している。さらには、BQ.1.1系統とXBB系統が、国内を含む多くの国々で検出されている。こうした環境下で、国民のおよそ65%あるいは40%がmRNAワクチンの3回目あるいは4回目接種を終えているなか、現在流行中の系統に対するワクチンの有効性に関する情報が求められている。そのため、河岡氏らの研究グループは、オミクロン株BQ.1.1系統とXBB系統に対するmRNAワクチン(パンデミック初期株をもとに作られたワクチン)の有効性を検証するため、患者から分離したBQ.1.1系統とXBB系統に対するmRNAワクチン被接種者血漿の中和活性を調べた。
mRNAワクチン被接種者から採取された血漿のBQ.1.1株とXBB株に対する感染阻害効果(中和活性)を調べた結果、mRNAワクチン3回目の被接種者の血漿(3回目接種から半年経過したもの)または4回目の被接種者血漿(4回目接種から1~2ヵ月経過したもの)の、BQ.1.1系統とXBB系統に対する中和活性は、いずれも、従来株、BA.2系統、あるいはBA.5系統に対する活性より著しく低く、多くの検体で中和活性が検出限界以下だった。
続いてmRNAワクチンを3回目接種後にBA.2系統に感染した患者(BA.2系統ブレークスルー感染者)の血漿を用いて、BQ.1.1株とXBB株に対する中和活性を調べたところ、これらの血漿のBQ.1.1系統とXBB系統に対する中和活性は、従来株、BA.2系統、あるいはBA.5系統に対する活性よりも顕著に低いことがわかった。一方で、ほとんどの血漿は低いながらも中和活性を有していることが判明した。
同グループは、本研究を通して得られた成果は、「医療現場における適切なCOVID-19治療薬の選択に役立つだけでなく、オミクロン株各系統のリスク評価など、行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定・実施する上で、重要な情報となる」と期待を寄せている。
(ケアネット 稲川 進)