統合失調症の主な治療では抗精神病薬が用いられるが、QOLを低下させうるさまざまな投与量関連の副作用が問題となる。そのため、抗精神病薬は可能な限り低用量での使用が推奨されているが、実際の臨床現場では高用量で使用されることも少なくない。再発リスクを抑え有害な副作用を最小限にとどめるために、抗精神病薬を安全に減量できるのかどうか、またはその方法について明らかにする必要がある。
イタリア・カターニア大学のAlessandro Rodolico氏らは、統合失調症患者に対する抗精神病薬について、現在の用量を継続した場合と比較した減量の有効性および安全性の評価を行った。その結果、抗精神病薬の用量を減量した場合と継続した場合において、QOL、機能、1つ以上の有害事象が発現した患者の割合に差は認められなかったが、減量により再発および治療中止のリスクが上昇し、再入院の可能性は高まった。注目すべき点として、研究の大部分がQOL、機能、有害事象などの潜在的なアウトカムではなく再発予防に焦点を当てており、そのうちのいくつかの研究では、抗精神病薬の急激な減量が行われていた。著者らは、より明確な答えを得るためには、適切に設計されたRCTが求められるとしている。Cochrane Database of Systematic Reviews誌2022年11月24日号の報告。
Cochrane Schizophrenia GroupのStudy-Based Register of Trialsとして2021年2月10日までに公表された文献を、各種データベース(CENTRAL、MEDLINE、Embase、CINAHL、PsycINFO、PubMed、ClinicalTrials.gov、ISRCTN、WHO ICTRP)よりシステマティックに検索した。現行の抗精神病薬治療で安定している統合失調症または関連疾患の患者を対象に、抗精神病薬の減量および継続を比較したランダム化比較試験(RCT)を含めた。さらに、含まれた研究と以前のレビューにおけるリファレンスリストについても調査した。2人以上のレビュアーが独立して、適格研究より関連する記録のスクリーニング、データ抽出を行い、RoB 2を用いてバイアスリスクを評価した。欠落データおよび追加情報については、各研究の著者に連絡し収集した。
主要アウトカムは、QOLの臨床的に重要な変化、再入院、副作用による治療中止とした。副次アウトカムは、機能の臨床的に重要な変化、再発、すべての理由による治療中止、1つ以上の有害事象とした。また、症状、QOL、機能の測定に用いた評価尺度、特定の有害事象の包括的なリストも併せて調査した。できる限り1年に最も近いエンドポイントでのアウトカムをプールした。エビデンスの確実性の評価には、GRADEアプローチを用いた。
主な結果は以下のとおり。
・含まれた25件のRCTのうち22件(2,635例、平均年齢:38.4歳)からデータを抽出した。
・研究のサンプルサイズの中央値は60例(範囲:18~466例)であり、期間の中央値は37週(範囲:12週~2年)であった。
・用量減量のスピード(研究の約半数で2~16週以内の漸減、残りの半数は急激な減量)および程度(3研究で中央値66%までの計画的減量)には、ばらつきがあった。
・全体のバイアスリスクは、いずれかの懸念または高リスクとして評価した。
・QOLまたは機能の臨床的に重要な変化が認められた患者に関するデータを報告した研究はなく、QOLまたは機能の測定に用いた評価尺度について継続的なデータを報告した研究は8件のみであった。
・QOL(標準化平均差[SMD]:-0.01、95%信頼区間[CI]:-0.17~0.15、RCT:6件、719例、I2=0%、エビデンスの確実性:中)および機能(SMD:0.03、95%CI:-0.10~0.17、RCT:6件、966例、I2=0%、エビデンスの確実性:高)の測定に用いた評価尺度では、抗精神病薬の減量と継続に差は認められなかった。
・推定可能なエフェクトサイズに関する8つの研究のデータによると、抗精神病薬の用量を減量した場合は、継続した場合と比較し、再入院のリスクを上昇させる可能性が示唆された。しかし、95%CIに差がない可能性があった(リスク比[RR]:1.53、95%CI:0.84~2.81、RCT:8件、1,413例、I2=59%[異質性:moderate]、エビデンスの確実性:非常に低い)。
・同様に、20件の研究のデータによると、抗精神病薬の用量を減量した場合、再発リスクの上昇が認められた(RR:2.16、95%CI:1.52~3.06、RCT:20件、2,481例、I2=70%[異質性:substantial]、エビデンスの確実性:低)。
・抗精神病薬を減量した患者は、継続した患者と比較し、有害事象(RR:2.20、95%CI:1.39~3.49、推定可能なエフェクトサイズを含むRCT:6件、1,079例、I2=0%、エビデンスの確実性:中)およびすべての理由(RR:1.38、95%CI:1.05~1.81、RCT:12件、1,551例、I2=48%[異質性:moderate]、エビデンスの確実性:中)による早期の治療中止が多かった。
・推定可能なエフェクトサイズを有する4つの研究のデータによると、抗精神病薬を減量した患者と継続した患者では、1つ以上の有害事象が発現した患者の割合に差は認められなかった(RR:1.03、95%CI:0.94~1.12、RCT:5件、998例[推定可能なエフェクトサイズを含むRCT:4件、980例]、I2=0%、エビデンスの確実性:中)。
(鷹野 敦夫)