高齢者の自動車運転に起因する事故が後を絶たない。交通安全推進のため、75歳以上のドライバーを対象に、2009年から運転免許更新時の認知機能検査が義務化され、2017年からその検査結果の運用方法が変更された。これら運用変更後に、高齢ドライバーの事故は減少したのだろうか。
市川 政雄氏(筑波大学医学医療系教授)らの研究グループは、2012~19年までに全国で発生した高齢ドライバーによる交通事故のデータを用い、2017年の運用変更後に、75歳以上のドライバーの事故数が、認知機能検査の対象外である70~74歳と比べ、どの程度変化したのか分析した。また、75歳以上の高齢者が自転車や徒歩で移動中に負った交通外傷の数にも変化があったのか、同様に分析した。
その結果、ドライバーとしての事故は減少していた一方で、自転車や歩行者としての外傷は増加していたことが明らかとなった。Journal of the American Geriatrics Society誌2023年1月25日号からの報告。
自動車事故は減少した一方で課題も残る
【研究の背景】
わが国では、高齢ドライバーの安全確保を目的として、さまざまな運転免許証更新時の講習などの施策がとられている。しかし、本研究グループの先行研究によれば、これら導入後、75歳以上のドライバーが起こした事故は減少せず、認知機能検査導入後は、自転車や歩行者としての外傷が増加していた。本研究では、2017年3月の運用変更後に、高齢者のドライバーとしての事故や自転車や歩行者としての外傷がどの程度変化したのか分析した。
【研究内容と成果】
(方法)
本研究では、交通事故総合分析センターから入手した2012年7月~2019年12月までに全国で発生し、警察に報告された交通事故のデータを使用。2017年3月の認知機能検査の運用変更後に、75~79歳、80~84歳、85歳以上の男女別の各年齢層のドライバーが当事者となった事故の率(性・年齢層別の人口当たり)が、免許更新時の認知機能検査の対象外であった70~74歳のドライバーの事故率と比べて、その率比がどの程度変化したかを、分断時系列解析を用いて分析した。また、高齢者が自転車や歩行者として交通外傷を負った率(性・年齢層別の人口当たり)の変化も、同様に分析した。
(結果)
2017年3月以降、ドライバーとしての事故率は、いずれの年齢層でも、男性で低下し、女性では統計学的に有意な変化がみられなかった。その一方で、自転車や歩行者としての外傷率は、とくに女性で増加していた。また、2017年3月以降の事故率・外傷率のトレンドの変化に基づき推定したところ、認知機能検査の運用が変更された2017年3月~2019年12月までに、75歳以上のドライバーとしての事故は3,670件(95%信頼区間[CI]:2,104~5,125)減少し、自転車や歩行者としての外傷は959件(95%CI:24~1,834)増加したと推定された。
以上から2017年3月の運用変更は、ドライバーとしての事故を減らした可能性がある一方で、自転車や歩行者としての外傷を増やした可能性が示唆された。
研究グループは今回の研究結果から、「自転車や徒歩で移動する際の安全対策を強化したり、それらよりも安全な移動手段を確保したりする必要がある。また、高齢ドライバーが安全に運転できる『運転寿命』を延伸する方策や、運転を止めても住み慣れた地域で暮らし続けられるようにする支援にも検討を進めることが必要」と課題を示している。
(ケアネット 稲川 進)