ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック)は、コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化リスクの高い患者において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)デルタ株および初期のオミクロン株に対する重症化抑制効果が示されている。重症化リスクの高いワクチン未接種の成人を対象とした、ランダム化比較試験「EPIC-HR試験」では、重症化リスクを89%低下させたことが報告されている1)。しかし、EPIC-HR試験はデルタ株流行期に行われた試験であり、オミクロン株流行期に主流となったBA.4系統、BA.5系統などに対する効果は明らかになっていない。そこで、米国・コロラド大学医学部のNeil R. Aggarwal氏らは、コロラド州の医療システムの記録を用いて、オミクロン株流行期の実臨床におけるニルマトレルビル/リトナビルの外来患者に対する有用性を検討した。その結果、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院、全死亡、救急受診を減少させ、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院の減少は、ワクチン接種状況や年齢、感染時期などに関係なく認められた。Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年2月10日掲載の報告。
本研究は、コロラド州の医療システムの記録を用いて、2022年3月26日~8月25日の期間にSARS-CoV-2に感染した外来成人患者を対象として、後ろ向きに追跡した試験である。対象患者は、SARS-CoV-2検査陽性またはニルマトレルビル/リトナビルが処方された患者2万1,493例であった。SARS-CoV-2検査陽性から10日以内にほかのCOVID-19治療薬が処方または投与された患者や、SARS-CoV-2検査陽性時に入院していた患者、ニルマトレルビル/リトナビルの処方から10日以上前に検査陽性であった患者などは除外された。主要評価項目はSARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院、副次評価項目はCOVID-19に関連するSARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院であった。その他の副次評価項目として、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の全死亡、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の救急受診などが評価された。解析は、ニルマトレルビル/リトナビルが投与された患者(ニルマトレルビル群)とCOVID-19治療薬が投与されなかった患者(非投与群)の傾向スコアをマッチングさせて行われた。
主な結果は以下のとおり。
・対象患者2万1,493例の内訳は、ニルマトレルビル群9,881例、非投与群1万1,612例であった。
・SARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院は、ニルマトレルビル群0.9%(61/7,168例)、非投与群1.4%(135/9,361例)であり、ニルマトレルビル群で有意に減少した(調整オッズ比[aOR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.33~0.62、p<0.0001)。
・SARS-CoV-2検査陽性後28日間の全死亡は、ニルマトレルビル群0.1%未満(2/7,168例)、非投与群0.2%(15/9,361例)であり、ニルマトレルビル群で有意に減少した(aOR:0.15、95%CI:0.03~0.50、p=0.0010)。
・臨床的に重要な再発の代替指標として救急受診を用いたところ、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の救急受診は、ニルマトレルビル群3.9%(283/7,168例)、非投与群4.7%(437/9,361例)であり、ニルマトレルビル群で有意に減少した(aOR:0.74、95%CI:0.63~0.87、p=0.0002)。
・SARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院に関するサブグループ解析では、ワクチン接種状況(0回、1または2回、3回以上)、年齢(65歳未満、65歳以上)、感染時期(BA.4系統、BA.5系統の出現前、出現後)などの交互作用は認められなかった。
本論文の著者らは、本研究結果について「ニルマトレルビル/リトナビルは、BA.4系統、BA.5系統が主流となった期間を含むオミクロン株流行期において、SARS-CoV-2検査陽性後28日間の入院および全死亡を大幅に減少させた。また、ニルマトレルビル/リトナビル投与後のリバウンド症状が重篤化することはほとんどないと考えられることは、心強いことである。BA.4系統、BA.5系統を含むオミクロン流行期において、外来患者に対するニルマトレルビル/リトナビルの有効性を示唆した初めてのデータである」とまとめている。
(ケアネット 佐藤 亮)