睡眠中に大きないびきと共に呼吸が止まったり、弱くなったりするという症状を呈する睡眠時無呼吸症候群(SAS)。いびきをかく人の25%(男性:3人に1人、女性:5人に1人)は睡眠時無呼吸を発生していたという報告もあり1)、SASの80%は未診断ともいわれる2)。しかし、SASは糖尿病・心血管疾患の発症や循環器系の疾患による死亡のリスクを上昇させるため、治療が必要である。一般的な治療法としてはCPAP(持続陽圧呼吸)治療、マウスピース治療、手術、生活習慣の改善がある。
そこで、レスメドは2023年3月16日に「CPAP治療の最前線と患者アドヒアランスの向上について」と題してメディアセミナーを実施した。前半で富田 康弘氏(虎の門病院 睡眠呼吸器科)が「CPAP治療の最前線と患者アドヒアランスの向上について」をテーマに講演し、後半では、レスメドの久保 慶郎氏が同日上市したPAP(気道陽圧)装置「Air Sense 11」について紹介した。
健康の3本柱としての睡眠
富田氏は、「健康のために気を付けていることとして、食事や運動を挙げる人はいるが、睡眠を挙げる人は非常に少ない」と述べる。実際に、国民生活時間調査2020では日本人の平日の睡眠時間は7時間12分であったことが報告されており、年々短くなっている
3)。また、経済協力開発機構(OECD)が実施した平均睡眠時間の調査では、OECD加盟国の中で日本が最も睡眠時間が短いことが明らかになっている。なお、National Sleep Foundation(米国睡眠財団)は18~64歳までの成人であれば7~9時間、65歳以上であれば7~8時間の睡眠を推奨している
4)。
そこで、富田氏は7時間以上の睡眠を確保するために、睡眠を中心として生活を組み立てていくことを提案した。「たとえば、朝7時に起きるのがちょうどいいという人は24時に就寝するということを決めて、それを基に生活を組み立ててほしい」という。朝型、夜型は生まれ持ったものであるため、それに合わせた形で睡眠時間を確保することが重要ということも強調した。
SASは肥満の人や男性だけの病気ではない
しっかり睡眠をとっているにもかかわらず、日中に強い眠気があるという人もいる。そのような場合は、SASが隠れている可能性があるという。とくに「夜に大きないびきをかく」「日中に強い眠気がある」「ときどき呼吸が止まる」「起床時に頭痛やだるさがある」といった症状があったら要注意とのことである。
SASは上気道の閉塞によって生じるため、肥満が原因となる。しかし、日本人を含むアジア人は顎が小さいため、日本人は肥満がなくてもSASを発症することもあるという。SASの原因はさまざまであるが、SAS治療のゴールドスタンダードであるCPAP治療は上気道の閉塞を抑制することにより、原因によらず治療効果が期待できる。
NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)に基づくと、日本ではCPAP治療を受けている患者は60万人を超えるとされるが、未治療の患者は400万人以上いると推定されている。また、CPAP治療を受けている女性は9.1万人とされる
5)。女性と男性のSASの有病率の比率は1:2~3といわれるため、女性では未診断・未治療の患者が多いと考えられる。これについて富田氏は「肥満の人や男性に多い病気であると捉えられているためではないか」と述べ、正しいメッセージを伝えていくことの重要性を強調した。
CPAPは毎日4時間以上継続することが重要
SASは、糖尿病や循環器疾患のリスクとなる疾患である。「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」では、閉塞性睡眠時無呼吸患者の高血圧や心血管イベントの抑制にはCPAPを4時間以上使用する日を70%以上とすること、日中の眠気の抑制にはCPAPを毎日4時間以上使用することが推奨されている
6)。
このアドヒアランス目標を達成し、治療を継続するために、富田氏は「患者が受け身ではなく積極的に治療に取り組むことが必要である」と言う。そのような背景から「近年のCPAP治療では、遠隔モニタリング機能やスマートフォンアプリなどが利用可能であるため、患者エンゲージメントの向上に活用してほしい」と述べた。
アドヒアランス・エンゲージメントの向上を目指しAirSense 11を上市
続いて、レスメドの久保氏が2023年3月16日に上市したPAP装置AirSense 11について紹介した。従来のAirSense 10では、治療へのエンゲージメントを高めることが期待されるアプリmyAirが併用可能となっている。myAirでは、使用時間やマスクの密閉性など、使用状況が100点満点でスコアリングされ、スマートフォン上に表示される。また、患者の使用状況に応じたコーチング機能も提供されている。しかし、CPAP治療を開始した患者のなかには「導入で説明された内容を覚えられない」「適切にデバイスやマスクを使用できているか不安」などの悩みを抱える患者もいる。
そこで、今回上市されるAirSense 11では、myAirと併用することで治療の「見える化」をサポートするPersonal Therapy Assistant、患者の主観的情報を医療者へ「見える化」するCare Check-Inという2つの機能が追加された。Personal Therapy Assistantでは、マスク装着などの手順についての解説動画を視聴することができ、実際にマスクが正確に装着されているか評価することもできる。Care Check-Inは患者の主観的感覚をデータとして医療者へ提供する。「眠気を感じていますか?」「治療は上手くいっていると感じていますか?」「何か課題は感じていますか?」という質問を患者に提示し、その回答を医療者に共有することができる。
久保氏は「AirSense 11は、とくにCPAP治療を開始する初期の患者にスムーズでポジティブな経験をしてもらうことを支援するデバイスである。対面や遠隔など、患者と医療者のタッチポイントが変化していく環境において、AirSense 11を通じて患者のアドヒアランス向上やエンゲージメント向上のサポートをしていきたい」とまとめた。
■参考文献
1)
Peppard PE, et al. Am J Epidemiol. 2013;177:1006-1014.
2)
Benjafield AV, et al. Lancet Respir Med. 2019;7:687-698.
3)
NHK放送文化研究所.国民生活時間調査2020
4)
Hirshkowitz M, et al. Sleep Health. 2015;1:233-243.
5)
厚生労働省. 第6回NDBオープンデータ
6)
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン作成委員会 編集. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020. 南江堂;2020.p.76.
(ケアネット 佐藤 亮)