Notchリガンドの1つであるDLL3はNotchを阻害する働きを有する。DLL3は、小細胞肺がん(SCLC)や神経内分泌がん(NEC)の細胞表面に高発現しており、薬剤ターゲットとして有望視されている。DLL3とCD3を標的とする二重特異性T細胞誘導(BiTE)抗体のBI 764532は、DLL3陽性細胞および異種移植モデルマウスで強力な前臨床抗腫瘍活性を示したことが報告された1)。そこで、DLL3陽性SCLC、NEC患者を対象としたBI 764532のファースト・イン・ヒューマン試験(NCT04429087)が実施されている2)。現在進行中の本試験において、BI 764532は管理可能な安全性プロファイルを示し、有効性についても有望な結果が得られていることが示された。ドイツ・ドレスデン工科大学のMartin Wermke氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で発表した。
・試験デザイン:第I相非盲検用量漸増試験
・対象:既治療のDLL3陽性進行SCLC 57例、NEC 41例、大細胞NEC(LCNEC)9例
・投与方法:以下の3つの異なるレジメンを用いて、BI 764532を静脈内投与した。治療は病勢進行(PD)または許容できない毒性が認められるまで、最大36ヵ月継続された。
A:固定用量(3週ごと)
B1:固定用量(毎週)
B2:A、B1の用量に基づく用量漸増(毎週)
・評価項目
[主要評価項目]最大耐用量の同定、最大耐用量の評価期間における用量規定毒性(DLT)
[副次評価項目]RECIST v1.1に基づく奏効率(ORR)など
主な結果は以下のとおり。
・データカットオフ時点(2023年3月26日)の安全性解析集団(BI 764532を1回以上投与された患者)における患者背景は、年齢中央値60.0歳(範囲:32~79歳)、ECOG PS 0/1がそれぞれ26%(28例)、73%(78例)、PD-1/PD-L1阻害薬による前治療歴ありが49%(52例)、3ライン以上の前治療歴ありが31%(33例)であった。
・治療関連有害事象(TRAE)は86%(92例)に認められ、最も多く認められたものはサイトカイン放出症候群(CRS)であった。CRSは全体で59%(63例)に認められたが、Grade1/2が57%(61例)、Grade3~5が2%(2例)であり、対症療法やステロイド、抗IL-6受容体抗体を用いて容易に管理可能であった。
・そのほかの主なTRAE(15%以上に発現)は、リンパ球数減少(20%、21例)、味覚異常(20%、21例)、無力症(19%、20例)、発熱(18%、19例)であった。
・投与中止に至ったAE、TRAEはそれぞれ13%、4%に認められた。
・DLTは5例に認められ、内訳はCRS 2例(Grade3~4)、錯乱状態1例(Grade3)、注入に伴う反応(Grade2)、神経系障害1例(Grade3)であった。
・最大耐用量の同定には至らず、用量漸増が継続中。
・90μg/kg以上の用量で投与した際のORRは25%(SCLC:26%、NEC:19%、LCNEC:60%)、病勢コントロール率は52%(SCLC:51%、NEC:44%、LCNEC:100%)であった。完全奏効は認められなかった。
・奏効のみられた18例中14例で奏効が持続し、最長は13.1ヵ月(持続中)であった(2023年4月21日時点)。
Wermke氏は本結果について、「臨床有効用量におけるBI 764532の安全性は臨床的に許容可能かつ管理可能であり、TRAEによる投与中止例は4%と少なかった。また、治療反応は持続的と考えられた」とまとめた。
(ケアネット 佐藤 亮)