身体活動と睡眠はともに認知機能低下や認知症の重要なリスク因子であるが、それらがどのように相互に作用しているかは十分に検討されていない。そこで、英国・University College LondonのMikaela Bloomberg氏らが、身体活動と睡眠時間の組み合わせと10年間の認知機能の推移の関連を調査した結果、高頻度・高強度の運動を行っていても、睡眠時間が短い場合では認知機能の低下が速かったことを明らかにした。The Lancet Healthy Longevity誌2023年7月号の報告。
研究グループは、2008年1月1日~2019年7月31日に2年ごとに追跡調査が実施された英国の老化に関する縦断的研究のデータ(English Longitudinal Study of Ageing)を分析した。対象は、ベースライン時に認知機能が正常な50歳以上の人で、追跡調査期間中に認知症の診断を報告した場合は除外された。身体活動量と夜間の睡眠時間は自己申告で聴取され、エピソード記憶評価や言語流暢性検査によって複合認知機能スコアが算出された。線形混合モデルを用いて、身体活動量(身体活動の頻度と強度から算出)、および睡眠時間(6時間未満、6~8時間、8時間超)と、認知機能低下の関連を検討した。
主な結果は以下のとおり。
・解析には、ベースライン時の年齢が50~95歳であった8,958人が組み込まれた(追跡期間中央値10年[四分位範囲:2~10])。
・ベースライン時の認知機能スコアの平均値は、身体活動量が多いグループのほうが身体活動量が少ないグループよりも良好で、睡眠時間が6~8時間のグループでは6時間未満および8時間超のグループよりも良好であった。身体活動量が多く睡眠時間が6~8時間のグループは、どの組み合わせのグループよりも良好な認知機能スコアを示した。
・追跡調査の認知機能スコアでは、身体活動量が多く睡眠時間が6時間未満のグループは、身体活動量が多く睡眠時間が6~8時間のグループよりも認知機能低下の速度が速かった。
・ベースライン時の年齢が50代および60代の身体活動量が多く睡眠時間が6時間未満のグループは、身体活動量が少なく睡眠時間が6時間未満のグループと同程度の低い認知機能スコアを示した。70歳以上の場合は有意ではなかった。
これらの結果より、研究グループは「高頻度・高強度の身体活動を行っていても、短い睡眠による急速な認知機能低下を改善するには不十分であった。身体活動への介入では、長期的な認知機能の維持のために睡眠習慣も考慮する必要がある」とまとめた。
(ケアネット 森 幸子)