高血圧への第1選択としての利尿薬vs.他の降圧薬~コクランレビュー

提供元:ケアネット

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公開日:2023/08/24

 

 高血圧患者における死亡率、心血管イベントの発生率、有害事象による中止率などについて、第1選択薬としてのサイアザイド系利尿薬と他のクラスの降圧薬を比較したシステマティックレビューの結果を、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のMarcia Reinhart氏らがThe Cochrane Database of Systematic Reviews誌2023年7月13日号に報告した。

 2021年3月までのCochrane Hypertension Specialized Register、CENTRAL、MEDLINE、Embase、および臨床試験登録が検索された。対象は1年以上の無作為化比較試験で、第1選択薬としての利尿薬と他の降圧薬の比較、および死亡率とその他のアウトカム(重篤な有害事象、総心血管系イベント、脳卒中、冠動脈性心疾患[CHD]、うっ血性心不全、有害作用による中止)が明確に定義されているものとした。

 主な結果は以下のとおり。

・9万例超が対象の、26の比較群を含む20件の無作為化試験が解析された。
・今回の結果は、2型糖尿病を含む複数の合併症を有する50〜75歳の男女高血圧患者における第1選択薬に関するものである。
・第1選択薬としてのサイアザイド系およびサイアザイド系類似利尿薬が、β遮断薬(6試験)、Ca拮抗薬(8試験)、ACE阻害薬(5試験)、およびα遮断薬(3試験)と比較された。
・他の比較対照には、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、アリスキレン(直接的レニン阻害薬)、およびクロニジン(中枢作用薬)が含まれていたが、データが不十分だった。
・重篤な有害事象の総数に関するデータを報告した研究は3件のみで、利尿薬とCa拮抗薬を比較した研究が2件、直接的レニン阻害薬と比較した研究が1件だった。
β遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:
・全死亡率(リスク比[RR]:0.96[95%信頼区間:0.84~1.10]、5試験/1万8,241例/確実性:中程度)。
・総心血管イベント(5.4% vs.4.8%、RR:0.88[0.78~1.00]、絶対リスク減少[ARR]:0.6%、4試験/1万8,135例/確実性:中程度)。
・脳卒中(RR:0.85[0.66~1.09]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、CHD(RR:0.91[0.78~1.07]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、心不全(RR:0.69[0.40~1.19]、1試験/6,569 例/確実性:低)。
・有害作用による中止(10.1% vs.7.9%、RR:0.78[0.71~0.85]、ARR:2.2%、5試験/1万8,501例/確実性:中程度)。
Ca拮抗薬と比較したサイアザイド系利尿薬:
・全死亡率(RR:1.02[0.96~1.08]、7試験/3万5,417例/確実性:中程度)。
・重篤な有害事象(RR:1.09[0.97~1.24]、2試験/7,204例/確実性:低)。
・総心血管イベント(14.3% vs.13.3%、RR:0.93[0.89~0.98]、ARR:1.0%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。
・脳卒中(RR:1.06[0.95~1.18]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.00[0.93~1.08]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、心不全(4.4% vs.3.2%、RR:0.74[0.66~0.82]、ARR:1.2%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。
・有害作用による中止(7.6% vs.6.2%、RR:0.81[0.75~0.88]、ARR:1.4%、7試験/3万3,908例/確実性:低)。
ACE阻害薬と比較したサイアザイド系利尿薬:
・全死亡率(RR:1.00[0.95~1.07]、3試験/3万961例/確実性:中程度)。
・総心血管イベント(RR:0.97[0.92~1.02]、3試験/3万900例/確実性:低)。
・脳卒中(4.7% vs.4.1%、RR:0.89[0.80~0.99]、ARR:0.6%、3試験/3万900例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.03[0.96~1.12]、3試験/3万900例/確実性:中程度)、心不全(RR:0.94[0.84~1.04]、2試験/3万392例/確実性:中程度)。
・有害作用による中止(3.9% vs.2.9%、RR:0.73[0.64~0.84]、ARR:1.0%、3試験/2万5,254例/確実性:中程度)。
α遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:
・全死亡率(RR:0.98[0.88~1.09]、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。
・総心血管イベント(12.1% vs.9.0%、RR:0.74[0.69~0.80]、ARR:3.1%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)。
・脳卒中(2.7% vs.2.3%、RR:0.86[0.73~1.01]、ARR:0.4%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)、CHD(RR:0.98[0.86~1.11]、2試験/2万4,396例/確実性:低)、心不全(5.4% vs.2.8%、RR:0.51[0.45~0.58]、ARR:2.6%、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。
・有害作用による中止(1.3% vs.0.9%、RR:0.70[0.54~0.89]、ARR:0.4%、3試験/2万4,772例/確実性:低)。

 著者らは、本結果を以下のようにまとめている。

・利尿薬と他のクラスの降圧薬の間で、おそらく死亡率に差はない。
・利尿薬はβ遮断薬と比較して、心血管イベントをおそらく減少させる。
・利尿薬はCa拮抗薬と比較して、心血管イベントと心不全をおそらく減少させる。
・利尿薬はACE阻害薬と比較して、脳卒中をおそらくわずかに減少させる。
・利尿薬はα遮断薬と比較して、心血管イベント、脳卒中、心不全をおそらく減少させる。
・利尿薬はβ遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、α遮断薬と比較して、有害作用による中止がおそらく少ない。

(ケアネット 遊佐 なつみ)