EGFR遺伝子変異は多様であり、多くのuncommon変異やcompound変異(EGFRチロシンキナーゼ部位に複数の変異を有する)が存在する。これらの多様な変異に対して、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が有効性を示す可能性を示唆する報告はあるが、結論は得られていない。そこで、EGFR-TKIの活性が低いとされるexon20挿入変異やT790M変異を除くuncommon変異をsensitizing uncommon変異と定義し、EGFR遺伝子にsensitizing uncommon変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象として、アファチニブと化学療法を比較する第III相試験(ACHILLES/TORG1834試験)が実施された。その結果、アファチニブは化学療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を改善した。本結果は、新潟県立がんセンター新潟病院の三浦 理氏によって欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で発表された。
試験デザイン:国内第III相非盲検無作為化比較試験
対象:未治療のsensitizing uncommon EGFR遺伝子変異(exon20挿入変異、de novo T790M変異を除くuncommon/compound変異)を有する進行・再発の非扁平上皮NSCLC患者109例
試験群:アファチニブ(1日30mgまたは40mg)を病勢進行まで (アファチニブ群:73例)
対照群:プラチナ製剤(シスプラチン[75mg/m2]またはカルボプラチンAUC5または6)+ペメトレキセド(500mg/m2)を3週ごとに4サイクル→ペメトレキセドを3週ごとに病勢進行まで(化学療法群:36例)
評価項目:
[主要評価項目]治験医師評価に基づくPFS
[副次評価項目]奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、全生存期間(OS)、安全性など
データカットオフ日:2023年2月28日
主な結果は以下のとおり。
・対象の半数以上が主要なuncommon変異を有し、G719X変異単独が39.4%(43/109例)、L861Q変異単独が18.3%(20/109例)であった。compound変異は31.2%(34/109例)に認められ、uncommon/uncommon変異が22.0%(24/109例)、common(L858Rまたはexon19欠失変異)/uncommon変異が9.2%(10/109例)であった。
・追跡期間中央値は12.5ヵ月であった。
・PFS中央値は化学療法群が5.7ヵ月であったのに対し、アファチニブ群は10.6ヵ月であり、アファチニブ群が有意に改善した(ハザード比[HR]:0.422、95%信頼区間[CI]:0.256~0.694、p=0.0007、有意水準α=0.0304)。
・以上の結果から、データ安全性モニタリング委員会は試験の早期中止を勧告した。
・ORRは化学療法群が47.1%(PR:16例)であったのに対し、アファチニブ群は61.4%(CR:2例、PR:41例)であったが両群間に有意差は認められなかった(p=0.2069)。
・DCRは化学療法群82.4%、アファチニブ群82.9%であった。
・Grade3以上の有害事象は化学療法群37.1%、アファチニブ群43.8%に発現した。アファチニブ群の主な有害事象(50%以上に発現)は、下痢(82.2%)、爪囲炎、発疹、粘膜炎(いずれも58.9%)であった。アファチニブ群において肺炎による治療関連死が1例認められた。
三浦氏は「本試験によって、未治療のsensitizing uncommon EGFR遺伝子変異を有する非扁平上皮NSCLC患者において、アファチニブが標準治療となることが示された。今後はOSのデータや変異の種類による治療への反応性、病勢進行後の治療状況などを明らかにする予定である」とまとめた。
(ケアネット 佐藤 亮)