近年、社会や地域における、人々の信頼関係・結びつきを意味するソーシャルキャピタルという概念が注目されている。個人レベルでのソーシャルキャピタルは、認知機能低下を予防するといわれている。また、コミュニティレベルでのソーシャルキャピタルが、認知症発症に及ぼす影響についても、いくつかの研究が行われている。国立長寿医療研究センターの藤原 聡子氏らは、日本人高齢者を対象とした縦断的研究データに基づき、コミュニティレベルのソーシャルキャピタルと認知症発症との関連を調査した。その結果から、市民参加や社会的一体感の高い地域で生活すると、高齢女性の認知症発症率が低下することが示唆された。Social Science & Medicine誌2023年12月号の報告。
日本老年学的評価研究の9年間(2010~19年)にわたる縦断的データを用いて、分析を行った。対象は、7つの自治体、308のコミュニティに在住する65歳以上の身体的および認知的に独立した3万5,921人(男性:1万6,848人、女性:1万9,073人)。認知症発症は、公的介護保険の利用により評価した。ソーシャルキャピタルは、市民参加、社会的結束、社会的相互関係の3つの側面より評価した。性別で層別化し、2レベルのマルチレベル生存分析を行い、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。
主な結果は以下のとおり。
・フォローアップ期間中に認知症を発症した高齢者は、6,245人(17.4%)であった。
・認知症の累積発症率は、男性で16.2%、女性で18.4%であった。
・共変量で調整した後、個人レベルの市民参加は、男女ともに認知症発症率の低下と関連が認められた。
【男性】HR:0.84、95%CI:0.77~0.92
【女性】HR:0.78、95%CI:0.73~0.84
・コミュニティレベルの市民参加(HR:0.96、95%CI:0.93~0.99)および社会的結束(HR:0.93、95%CI:0.88~0.98)は、女性の認知症発症率の低下と関連していた。また、個人、コミュニティレベルを超えて、女性の社会的相互関係は認知症発症率の低下と関連が認められた(HR:0.95、95%CI:0.90~0.99)。
著者らは「地域社会における市民参加や社会的一体感を促進することで、認知症発症までの期間を遅らせたり、予防したりする可能性がある」としている。
(鷹野 敦夫)