新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中の規制(活動制限や物理的距離制限など)が50歳以上の中~高齢者の認知機能に及ぼした影響を調査した結果、パンデミック前と比べてパンデミック中は認知機能が顕著に悪化し、運動量の減少およびアルコール摂取量の増加と関連していたことが、英国・エクセター大学のAnne Corbett氏らによる横断研究で明らかになった。The Lancet Healthy Longevity誌2023年11月号の報告。
これまでの大規模コホート研究では、パンデミック以前に比べて抑うつや不安、ストレス、睡眠障害、アルコール摂取量が増加していることが報告されている。これらは認知症と密接に関係するリスクであることから、研究グループはパンデミックが認知機能の健康に及ぼした影響やその要因、コロナ規制解除後も持続するかどうかを明らかにするため、英国の縦断研究「PROTECT試験」のデータを用いて、中~高齢者の認知機能を調査した。
PROTECT試験の参加者は認知症ではない50歳以上の人で、認知機能評価(実行機能と作業記憶)や健康関連アンケートを毎年受けるとともに、身体活動量やアルコール摂取量などの生活習慣を聴取された。パンデミック前(2019年3月1日~2020年2月29日)、パンデミック1年目(2020年3月1日~2021年2月28日:コロナ規制期間)、パンデミック2年目(2021年3月1日~2022年2月28日:コロナ規制解除期間)における同じ個人のデータを収集し、線形混合効果モデルを使用して3つの期間の認知機能を比較した。サブグループ解析では、COVID-19既感染者や軽度認知症患者を対象として関連を調べるとともに、探索的解析では認知機能の変化に関連する因子を同定した。
主な結果は以下のとおり。
・解析には、3,142例(女性:1,696例[54.0%]、平均年齢:67.5歳[SD 9.6、範囲 50~96])が含まれた。パンデミック1年目に752例(23.9%)がCOVID-19を発症し、147例(4.7%)が軽度認知症の基準を満たした。
・パンデミック前と比べて、パンデミック1年目は全コホートで実行機能と作業記憶が有意に低下した(実行機能の効果量:0.15[95%信頼区間[CI]:0.12~0.17]、作業記憶の効果量:0.51[95%CI:0.49~0.53]、いずれもp<0.0001)。
・パンデミック2年目においても、全コホートで作業記憶が有意に低下していた。
・COVID-19既感染者および軽度認知症患者のサブグループでも同様の結果であった。
・COVID-19の流行前(2017~19年)と比較して、パンデミック1年目および2年目の認知機能は加速度的に低下していた。
・全コホートにおいて、認知機能の低下は運動量減少およびアルコール摂取量増加と関連していた。COVID-19既感染者では抑うつ、軽度認知症患者では孤独とも関連していた。
(ケアネット 森 幸子)