近年、認知症の有病率は高まっており、患者および介護者のQOLを向上させるためには、認知症の病態生理学および治療法をより深く理解することが、ますます重要となる。神経変性疾患であるアルツハイマー病は、高齢者における健忘性認知症の最も一般的な病態である。アルツハイマー病の病態生理学は、アミロイドベータ(Aβ)プラークの凝集とタウ蛋白の過剰なリン酸化に起因すると考えられる。以前の治療法は、非特異的な方法で脳灌流を増加させることを目的としていた。その後、脳内の神経伝達物質の不均衡を是正することに焦点が当てられてきた。そして、新規治療では、凝集したAβプラークに作用し疾患進行を抑制するように変わってきている。しかし、アルツハイマー病に使用されるすべての薬剤が、米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得しているわけではない。インド理科大学院Ashvin Varadharajan氏らは、研究者および現役の臨床医のために、アルツハイマー病の治療においてFDAが承認している薬剤を分類し、要約を行った。Journal of Neurosciences in Rural Practice誌2023年10~12月号の報告。
主な結果は以下のとおり。
・認知症の症状を緩和するための薬剤は、認知症の行動・心理症状(BPSD)と認知機能低下の緩和を目的とした薬剤に分類可能である。
・BPSDに対する薬剤には、認知症に伴うアジテーションの治療に対する1日1回投与の抗精神病薬ブレクスピプラゾール、睡眠障害の治療に用いられるオレキシン受容体拮抗薬スボレキサントが含まれる。
・認知機能低下に対する薬剤には、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンなどのグルタミン酸阻害薬が含まれる。
・ドネペジルは、最も一般的に使用されている薬剤であり、安価で忍容性が良好で、1日1回経口投与および週1回の経皮吸収投与が可能である。アセチルコリンレベルを増加させ、希突起膠細胞の分化を促進し、Aβ毒性保護効果を示す。しかし、心臓伝導系の副作用が報告されているため、定期的なモニタリングが必要とされる。
・リバスチグミンは、1日2回経口投与または1日1回経皮吸収投与が可能である。ドネペジルよりも心臓に対する副作用リスクは低いが、貼付部位の局所反応が問題となる。
・ガランタミンは、短期間で認知症症状を改善することに加え、BPSDの発現を遅延させると報告されている。また、複数の代謝経路を有するため、薬物相互作用を最小限に抑えることが可能である。ただし、心臓伝導系の副作用については、注意深くモニタリングする必要がある。
・グルタミン酸調整物質であるメマンチンは、認知機能および神経保護の改善に加え、抗パーキンソン病薬や抗うつ薬としても作用することが期待される。即時放出製剤または徐放性経口剤での1日1回投与が可能である。
・aducanumab、レカネマブなどの疾患修飾薬は、Aβの負担を軽減する。脳内のAβプラークの原線維構造と結合することで効果を発現する。これらの薬剤は、とくにApoE4遺伝子を有する患者においてアミロイド関連の画像異常を引き起こすリスクがある。aducanumabは4週間に1回、レカネマブは2週間1回の投与である。
著者らは「アルツハイマー病に対する薬剤選択では、薬剤入手の可能性、患者コンプライアンス、コスト、特定の併存疾患、特定の患者におけるリスクとベネフィットのバランスを考慮したうえで、決定する必要がある」とし「治療に対する総合的なアプローチとして、非薬物療法の使用も検討すべきである」としている。
(鷹野 敦夫)